貸金請求ノ件

平易表示にする 原文表示にする

大審院民事判決録（民録）9輯672頁

本件上告ノ理由ハ甲第一號ノ貸金ハ乙第一號契約ノ一部履行ニ過キサルコトハ洵ニ原判决説明ノ通リニシテ甲第一號ト乙第一號ト分離シ得ヘキモノニアラス左レハ乙第一號證ニシテ解除セラレタル以上ハ該證ニ記載セラレタル返濟ノ時期ハ消滅セシモノニシテ獨リ甲一號證ノ爲メ乙一號ノ返濟時期カ有効タルヘキ道理ナシトス何トナレハ乙第一號ノ契約ヲ離レテ甲第一號ノ消費貸借カ單獨ニ成立セシモノニアラサレハナリ然ルニ原院ハ甲第一號證ハ乙一號契約ノ解除セラレタルコトヲ認メナカラ甲第一號貸金ノ返濟時期ハ乙第一號契約ニ覊束セラルヘキモノナリトノ判旨ヲ以テ上告人ニ敗訴ヲ言渡サレタルハ理由齟齬ノ裁判ナリト云フニ在リ

按スルニ原判决ノ確定シタルカ如ク甲第一號證消費貸借契約ハ乙第一號證ノ消費貸借豫約ノ一部履行ニ因リ成立シ同契約ノ期限ヲ以テ其期限ト爲スモノナル以上ハ乙第一號證ノ契約ニシテ解除セラレ全ク無効ニ屬スルトキハ別段ナル理由ノ存セサル限リハ之ニ基キ成立シタル甲第一號證ノ契約ノ期限モ亦タ當然無効ニ歸スルモノト謂ハサルヘカラス何トナレハ甲第一號證ノ契約ハ乙第一號證ノ契約ニ基キ成立シ其契約ノ有期ナルハ乙第一號證ノ契約ニ期限ノ定メアルニ基クモノナレハ乙第一號證ノ契約カ解除ニ因リ無効ニ屬シタルニ拘ハラス獨リ甲第一號證ノ契約期限ノミ有効ニ存スヘキ理由ナケレハナリ故ニ本件ノ訴訟關係ニ於テ上告人（原告）ニ敗訴ノ裁判ヲ爲スニハ甲第一號證ノ契約ハ乙第一號證ノ契約ノ解除如何ニ關セス特別ノ事由ニ依リ有効ナルコトヲ認ムルカ然ラサレハ乙第一號證ノ契約ハ未タ解除セラレサルコトヲ確定セサル可カラス然ルニ原判决ハ漠然「控訴人（上告人）ニ於テ乙第一號證ノ豫約ノミヲ解除スルモ甲第一號證ノ有期貸借ハ尚存在スル道理ナルヲ以テ其期限ニ先チ貸金ノ返濟ヲ求ムルヲ得ス」ト説明シ直ニ上告人ニ敗訴ノ裁判ヲ爲シタルハ理由不備ニシテ其全分ノ破毀ヲ免カルヽコトヲ得サルモノトス被上告代理人ハ原判决理由ノ後段ニ記載セル被控訴人ノ起業ニ係ル用水工事ハ甲第二號證ニ依ルモ不能ト爲リタリトハ認メ難シ從テ甲第一號證ノ貸借モ亦タ期限到來シタリト認ムルヲ得ス」トノ説明ヲ援引シテ原判决ノ理由ニ欠クル所ナキ旨ヲ辯論スルモ該用水工事ノ不能ト爲ラサル實事ハ未タ以テ乙第一號證ノ契約ノ解除ト爲ラサルコトノ理由ト爲スニ足ラサレハ此説明モ亦タ固ヨリ原判决ノ主文ヲ維持スルニ足ラス因テ本院ハ民事訴訟法第四百四十七條第一項第四百四十八條第一項ニ從ヒ主文ノ如ク判决ス