明治三十一年第百十六號
明治三十一年十一月三十日第二民事部判决
◎判决要旨
- 一 證人ニシテ訴訟ノ成蹟ニ直接ノ利害關係ヲ有スルトキハ假令當事者カ其直接ノ利害關係ヲ有セサル旨ノ意見ヲ申立テタリトスルモ之ニ宣誓ヲ爲サシメ訊問スヘキモノニアラス(判旨第一點)
- 一 第二審裁判所カ第一審裁判所ノ訴訟手續違背ノ訊問ニ因ル證人ノ證言ヲ採用シ判斷ノ材料ト爲シタルハ不法ナリ(判旨第一點)
上告人 柳田五兵衛 外一名
被上告人 古川吉之助 外二十三名
訴訟代理人 兩角彦六 林登金太
右當事者間ノ立木伐採差止請求事件ニ付東京控訴院カ明治三十一年二月一日言渡シタル判决ニ對シ上告代理人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ且ツ被上告人柳澤安之助相場送七大井裟裟太郎相場ミト小山進ハ期日出頭セルニ付闕席ノ侭判决アリ度旨申立テ被上告代理人ハ上告棄却ノ申立ヲ爲シタリ
判决
原判决ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ東京控訴院ニ差戻ス
理由
上告第一點ハ上告人カ第一審以來主張スル所ハ被上告人ハ長野縣小諸町甲又四千六百四十番原野反別ニ反八畝一歩外三十八筆ノ地所ニ生立スル樹木ヲ伐採スル權利ナキ旨ノ判决ヲ受ケントスルニ在リ然ルニ被上告人等ハ右原野ニ對シ入會權ヲ有スルヲ以テ從テ伐採權アリトノ抗辯ヲ提出シタリ故ニ本件ノ爭點トスル所ハ第一ニ被上告人ハ果シテ本件原野ニ對シ入會權ヲ有スルヤ否ヤニ在リテ原院辯論調書ニ徴スルモ互ニ之ヲ抗爭シ居ルコトハ明白ナリトス然ラハ原院ニ於テハ先ツ第一ニ此點ニ付テ判斷セサル可ラサルニ原院ハ其判决理由ノ第一項ニ「本訴ノ立木ハ控訴人ニ於テ荒町部落擔任者ヨリ買受ケタルモノナリト雖トモ賣買ノ効力ハ第三者タル被控訴人ニ及フヘキニアラサレハ云々被控訴人ニ於テ入會權ノ行使ニシテ立木ヲ伐採スルヲ得ヘク云々被控訴人ノ行爲ヲ禁止スルコトヲ得サルモノトスト説明シ恰モ人會權ニ付テハ毫モ爭ナキカ如ク見做シ直ニ賣買ノ効果ニ付テ説明ヲ下シ入會權ノ有無ニ關シ何等ノ判斷ヲモ爲サヽルハ重要ナル爭點ヲ不問ニ付シタル違法ノ裁判ナリト云ヒ』其第三點ハ原院ニ於テハ其判决理由第二項ニ於テ云々「本訴立本ノ如キ松及雜木ノ雜草同樣入會權利者之レヲ収得スルノ慣例往々之レアリ被控訴人ノ入會權モ亦證人小山清左衛門小沼五兵衛ノ證言ニ徴スレハ此慣例ニ從ヒ設定セラレ且實行セラレツヽアリシコト明瞭ナリ」云々ト説明シ被上告部落ニ於テ本件原野ノ立本ヲ伐採スルノ權利アルコトヲ被上告部落ノ住民タル古證人兩名ノ證言ニ因テ判斷セラレタリト雖トモ右證人兩名ハ證人タルノ資格ナク從テ證言ハ無効ノモノナルニモ拘ラス原院カ之レヲ採リテ本件重要ノ爭點ヲ决シタルハ不法ノ裁判ナリトス抑本件ノ爭點ハ被上告人ノ所屬部落ハ本件原野ニ對シ入會權有リヤ否ヤ若シ有リトセハ被上告部落ハ仍ホ立木ヲモ伐採シ得ヘキヤ否ヤニ在ルコトハ前既ニ述ヘタカ如シ而シテ右證人兩名ハ右ノ爭點ニ付テハ直接ニ利害關係ヲ有スルモノナリ何トナレハ證人等ハ被上告人等ト同部落ノ住民ナレハ被上告部落ニ入會權アリヤ否ヤ又立木ヲ採伐シ得ルヤ否ヤノ問ニ對スル答ノ如何ニ依テハ證人自己ノ財産權上ニ直店ニ損害ヲ生セシムヘケレハナリ加之右兩名ノ證人ハ本件訴訟ノ成績ニ付テモ亦直接利害關係ヲ有スルモノナリ葢本訴ノ結果被上告人等ニ於テ本件立木ヲ伐採スルヲ得サルコトヽナランニハ被上告人等ト同一部落ニ住スル證人等モ亦其立木ヲ伐採スル能ハサルニ至ルハ自明ノ理ナレハナリ然ラハ即チ右證人兩名ハ民事訴訟法第三百十條ニ依リ參考人トシテ訊問スルノ外ナク之レヲ證人トシテ訊問シタルハ法律上無効ノモノナルニ原院カ之レヲ採リテ右樣ノ判斷ヲ爲シタルハ民事訴訟法第三百十條第四號及第五號ノ規定ニ違背シテ事實ヲ確定シタル不當ノ裁判ナリト云フニ在リ
依テ原審法廷調書ヲ査閲スルニ被控訴代理人即チ被上告人ノ代理人ハ本訴ニ對シ論所ハ明治七年迄ハ被控訴村方ニ於テ山手年貢ヲ上納シ來リ他村人民ノ入會ヲ禁スル等ノ權利アリシカ明治九年ニ當事者ノ部落ハ小諸町ニ合併セリ地券下附ノ際ニハ論所ハ脱落地トナリ居リタルカ明治十九年ニ至リテ脱落地ヲ取調ノ上申告セヨトノ達アリタルニ依リ被控村ニ於テ取調ヲ爲シ申告ヲ爲ス際控訴村ヨリ故障ヲ唱ヒタル爲メ縣知事ヨリ地方ノ名望家ニ仲裁ヲ爲サシメ其局係爭地ハ荒町部落ノ進退地トシ被控訴部落ノ入會地ト爲スコトノ約束ヲ取結ヒタリ夫レ故被控訴村ハ從前通伐木ヲ爲シ來リタル次第ナリ」ト主張シ控訴代理人即チ上告人ノ代理人ハ之ニ對シ被控訴人ハ論所ニ入會權アリト主張スルカ明治二十年ノ仲裁契約ハ消滅シタル事實アリ此當時ハ脱落地ハ果シテ部落ノ私有財産ナリシヤ又ハ官有ナリシヤハ判然セサリシ其後明治二十二年ニ至リ論所ノ内ヲ與良町有ト荒町部落有トノ區劃ヲ判然ト區分セリ右ノ如ク地所ノ性質變更セルト共ニ明治二十年ノ仲裁契約ハ消滅ニ歸シタルモノナリ」ト反對セシ事實ハ該調書ニ載セテ明瞭ナル所ナリ而シテ本訴ハ上告人ニ於テ被上告人カ擅ニ係爭地ノ樹木ヲ伐採スルハ不當ナリトシテ之レカ差止ヲ請求シ被上告人ハ與良町部落ハ係爭地ニ對シ入會權アルヲ以テ當然其樹木ヲ伐採スルノ權利アリト抗辯シタルモノニ付右ノ爭點即チ被上告部落ノ係爭地ニ於ケル入會權カ今尚ホ存續シ居ルヤ否ヤハ全ク爭中ノモノナルニ原裁判判ハ判决理由ノ第一項ニ於テ恰モ入會權ノ有無ニ就テハ當事者間ニ爭ナキモノ如ク「本訴ノ立木ハ控訴人ニ於テ荒町部落擔任者ヨリ買受ケタルモノナリト雖賣買ノ効カハ第三者タル被控訴人ニ及フヘキニアラサレハ立木コシテ仍ホ地上ニ存在シ土地ト一體ヲ爲シ居ル限リハ被控訴人ニ於テ入會權ノ行使トシテ立木ヲ伐採スルヲ得可ク云々」ト説明シ何等ノ理由モ付スルコト無ク入會權ノ存在ヲ認メ之レニ基テ被上告人等ニ立木伐採ノ權アリト判定シタルモノナルニ因リ民事訴訟法第四百三十六條第七號ニ該當セル不法ヲ免カレサルモノトス』又第三點ノ論旨ニ付キ之レヲ按スルニ第一審小沼五兵衛訊問調書ニ「證人ノ供述ハ左ノ如シ云々一職業ハ陶器商一住居ハ小佐久郡小諸町舊與良町一當事者ト親族又ハ後見人等ノ關懸ナシ一本訴ノ勝敗原被告何レニ歸スルモ身ニ直接利害關係ノ及フコトナシ」トアリ又同小山清左衛門訊問書ニ「云々一職業ハ農一住居ハ小佐久郡小諸町舊與良町一當事者ト親族又ハ後見人等ノ關係ナシ一本訴ノ勝敗何レニ歸スルモ身ニ直接利假關係ナキモ入會權ノコトニ付ハ關懸アルナリ被告代理曰部落ニ入會權アリトスレハ部落人民故入會權アルコトヽナリ直接ノ利害關係アルコトナルナリ原告代理曰直接利害ノ關係ナシ裁判長ハ評議ノ上直接利害ノ關係ナケレハ證人トシテ訊問スルモ支ナキモノト認ムト言渡シタリトアリ之レニ由テ之レヲ觀レハ小沼五兵衛ハ自ラ直接ノ利害關係ナシト申立小山清左衛衛ハ直接ノ利害關係ナキモ入會權ノコトニ付テハ關形アリト申立被控訴人即チ被上告人ハ直接ノ利害關係アリト云ヒ控訴人即チ上告人ハ直接ノ利害關係ナシト云ヒ結局裁判長ハ證人カ利害ノ直接關係ナキモノト認ムル旨ヲ宣言シ右兩人ニ對シ宣誓ヲ爲サシメタル上訊問シタル事實ナク然レトモ第一點ニ對シ説明スル如ク與良町部落ノ人民カ係爭地ニ入會權ヲ有スルヤ否ヤハ本訴ノ勝敗ヲ决ススヘキ重要ノ問題ニシテ若シ本訴ニ於テ與良町部落ニ入會權アリト决スル時ハ與良町部落ノ人民タル證人等兩名ハ其結果直ニ入會伐採スルノ權利ヲ得又入會權ナシト决スル時ハ從テ證人等モ不利益ヲ結果ヲ來ノ可キ筋合ニシテ證人等ハ訴訟ノ成績ニ直接ノ利害關係アルコトハ寔ニ明瞭ナル所ナリトス夫レ斯ノ如ク與良町部落ノ居住者ナリトノ事實明確ナル已上ハ他ニ特別ノ事情アラサルニ於テハ即チ民事訴訟法第三百十條第五號ニ該當スルモノト看做ス可キハ當然ニ付キ假全當事者カ之レニ對シ反對ノ意見ヲ申立タリトスルモ法律上宣誓ヲ爲サシム可キモノニアラサルハ勿論ニシテ第一審裁判所ハ右兩人ニ對シ宣誓ヲ爲サシメタル上訊問シタルハ違法ナリト云ハサル可カラス去レハ原裁判所ニ於テモ右證言ヲ採用セントスル時ハ先ツ其調書ヲ閲シ訊問カ訴訟手續ニ違背セサルヤ否ヤヲ審査セサル可カラサルモノナルニ慢然右兩人ノ證言ヲ採用シテ本訴判斷ノ材料ト爲シタルハ不法タルヲ免レサルモノニシテ上告論旨ハ此點ニ於テモ又其理由アルモノトス
既ニ右兩點ノ論旨ニ付キ破毀ス可キモノト認ムル上ハ他ノ論點ニ對シ説明スルノ要ナシ(判旨第一點)
巳上説明スル如クナルヲ以テ民事訴訟法第四百四十七條第一項ニ依リ原判决ノ全部ヲ破毀シ尚ホ同法第四百四十八條ニ依リ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ事件ヲ東京控訴院ニ差戻スヲ相當トス是レ主文ノ如ク判决スル所以ナリ
明治三十一年第百十六号
明治三十一年十一月三十日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 証人にして訴訟の成蹟に直接の利害関係を有するときは仮令当事者が其直接の利害関係を有せざる旨の意見を申立てたりとするも之に宣誓を為さしめ訊問すべきものにあらず。
(判旨第一点)
- 一 第二審裁判所が第一審裁判所の訴訟手続違背の訊問に因る証人の証言を採用し判断の材料と為したるは不法なり。
(判旨第一点)
上告人 柳田五兵衛 外一名
被上告人 古川吉之助 外二十三名
訴訟代理人 両角彦六 林登金太
右当事者間の立木伐採差止請求事件に付、東京控訴院が明治三十一年二月一日言渡したる判決に対し上告代理人より全部破毀を求むる申立を為し且つ被上告人柳沢安之助相場送七大井裟裟太郎相場みと小山進は期日出頭せるに付、闕席の侭判決あり度旨申立で被上告代理人は上告棄却の申立を為したり。
判決
原判決を破毀し更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を東京控訴院に差戻す
理由
上告第一点は上告人が第一審以来主張する所は被上告人は長野県小諸町甲又四千六百四十番原野反別に反八畝一歩外三十八筆の地所に生立する樹木を伐採する権利なき旨の判決を受けんとするに在り。
然るに被上告人等は右原野に対し入会権を有するを以て。
従て伐採権ありとの抗弁を提出したり。
故に本件の争点とする所は第一に被上告人は果して本件原野に対し入会権を有するや否やに在りて原院弁論調書に徴するも互に之を抗争し居ることは明白なりとす。
然らば原院に於ては先づ第一に此点に付て判断せざる可らざるに原院は其判決理由の第一項に「本訴の立木は控訴人に於て荒町部落担任者より買受けたるものなりと雖とも売買の効力は第三者たる被控訴人に及ぶべきにあらざれば云云被控訴人に於て入会権の行使にして立木を伐採するを得べく云云被控訴人の行為を禁止することを得ざるものとすと説明し恰も人会権に付ては毫も争なきが如く見做し直に売買の効果に付て説明を下し入会権の有無に関し何等の判断をも為さざるは重要なる争点を不問に付したる違法の裁判なりと云ひ』其第三点は原院に於ては其判決理由第二項に於て云云「本訴立本の如き松及雑木の雑草同様入会権利者之れを収得するの慣例往往之れあり被控訴人の入会権も亦証人小山清左衛門小沼五兵衛の証言に徴すれば此慣例に従ひ設定せられ、且、実行せられつつありしこと明瞭なり。」云云と説明し被上告部落に於て本件原野の立本を伐採するの権利あることを被上告部落の住民たる古証人両名の証言に因で判断せられたりと雖とも右証人両名は証人たるの資格なく。
従て証言は無効のものなるにも拘らず原院が之れを採りて本件重要の争点を決したるは不法の裁判なりとす。
抑本件の争点は被上告人の所属部落は本件原野に対し入会権有りや否や若し有りとせば被上告部落は仍ほ立木をも伐採し得べきや否やに在ることは前既に述べたが如し。
而して右証人両名は右の争点に付ては直接に利害関係を有するものなり。
何となれば証人等は被上告人等と同部落の住民なれば被上告部落に入会権ありや否や又立木を採伐し得るや否やの問に対する答の如何に依ては証人自己の財産権上に直店に損害を生ぜしむべければなり。
加之右両名の証人は本件訴訟の成績に付ても亦直接利害関係を有するものなり。
蓋本訴の結果被上告人等に於て本件立木を伐採するを得ざることとならんには被上告人等と同一部落に住する証人等も亦其立木を伐採する能はざるに至るは自明の理なればなり。
然らば、即ち右証人両名は民事訴訟法第三百十条に依り参考人として訊問するの外なく之れを証人として訊問したるは法律上無効のものなるに原院が之れを採りて右様の判断を為したるは民事訴訟法第三百十条第四号及第五号の規定に違背して事実を確定したる不当の裁判なりと云ふに在り
依て原審法廷調書を査閲するに被控訴代理人即ち被上告人の代理人は本訴に対し論所は明治七年迄は被控訴村方に於て山手年貢を上納し来り他村人民の入会を禁ずる等の権利ありしか明治九年に当事者の部落は小諸町に合併せり地券下附の際には論所は脱落地となり居りたるか明治十九年に至りて脱落地を取調の上申告せよとの達ありたるに依り被控村に於て取調を為し申告を為す際控訴村より故障を唱ひたる為め県知事より地方の名望家に仲裁を為さしめ其局係争地は荒町部落の進退地とし被控訴部落の入会地と為すことの約束を取結ひたり夫れ故被控訴村は従前通伐木を為し来りたる次第なり。」と主張し控訴代理人即ち上告人の代理人は之に対し被控訴人は論所に入会権ありと主張するか明治二十年の仲裁契約は消滅したる事実あり此当時は脱落地は果して部落の私有財産なりしや又は官有なりしやは判然せざりし其後明治二十二年に至り論所の内を与良町有と荒町部落有との区劃を判然と区分せり右の如く地所の性質変更せると共に明治二十年の仲裁契約は消滅に帰したるものなり。」と反対せし事実は該調書に載せて明瞭なる所なり。
而して本訴は上告人に於て被上告人が擅に係争地の樹木を伐採するは不当なりとして之れが差止を請求し被上告人は与良町部落は係争地に対し入会権あるを以て当然其樹木を伐採するの権利ありと抗弁したるものに付、右の争点即ち被上告部落の係争地に於ける入会権が今尚ほ存続し居るや否やは全く争中のものなるに原裁判判は判決理由の第一項に於て恰も入会権の有無に就ては当事者間に争なきもの如く「本訴の立木は控訴人に於て荒町部落担任者より買受けたるものなりと雖売買の効かは第三者たる被控訴人に及ぶべきにあらざれば立木こして仍ほ地上に存在し土地と一体を為し居る限りは被控訴人に於て入会権の行使として立木を伐採するを得可く云云」と説明し何等の理由も付すること無く入会権の存在を認め之れに基で被上告人等に立木伐採の権ありと判定したるものなるに因り民事訴訟法第四百三十六条第七号に該当せる不法を免がれざるものとす。』又第三点の論旨に付き之れを按ずるに第一審小沼五兵衛訊問調書に「証人の供述は左の如し云云一職業は陶器商一住居は小佐久郡小諸町旧与良町一当事者と親族又は後見人等の関懸なし。
一本訴の勝敗原被告何れに帰するも身に直接利害関係の及ぶことなし」とあり又同小山清左衛門訊問書に「云云一職業は農一住居は小佐久郡小諸町旧与良町一当事者と親族又は後見人等の関係なし。
一本訴の勝敗何れに帰するも身に直接利仮関係なきも入会権のことに付は関懸あるなり。
被告代理曰部落に入会権ありとすれば部落人民故入会権あることとなり直接の利害関係あることなるなり。
原告代理曰直接利害の関係なし。
裁判長は評議の上直接利害の関係なければ証人として訊問するも支なきものと認むと言渡したりとあり之れに由で之れを観れば小沼五兵衛は自ら直接の利害関係なしと申立小山清左衛衛は直接の利害関係なきも入会権のことに付ては関形ありと申立被控訴人即ち被上告人は直接の利害関係ありと云ひ控訴人即ち上告人は直接の利害関係なしと云ひ結局裁判長は証人が利害の直接関係なきものと認むる旨を宣言し右両人に対し宣誓を為さしめたる上訊問したる事実なく。
然れども第一点に対し説明する如く与良町部落の人民が係争地に入会権を有するや否やは本訴の勝敗を決すすべき重要の問題にして若し本訴に於て与良町部落に入会権ありと決する時は与良町部落の人民たる証人等両名は其結果直に入会伐採するの権利を得又入会権なしと決する時は。
従て証人等も不利益を結果を来の可き筋合にして証人等は訴訟の成績に直接の利害関係あることは寔に明瞭なる所なりとす。
夫れ斯の如く与良町部落の居住者なりとの事実明確なる己上は他に特別の事情あらざるに於ては。
即ち民事訴訟法第三百十条第五号に該当するものと看做す。
可きは当然に付き仮全当事者が之れに対し反対の意見を申立たりとするも法律上宣誓を為さしむ可きものにあらざるは勿論にして第一審裁判所は右両人に対し宣誓を為さしめたる上訊問したるは違法なりと云はざる可からず。
去れば原裁判所に於ても右証言を採用せんとする時は先づ其調書を閲し訊問が訴訟手続に違背せざるや否やを審査せざる可からざるものなるに慢然右両人の証言を採用して本訴判断の材料と為したるは不法たるを免れざるものにして上告論旨は此点に於ても又其理由あるものとす。
既に右両点の論旨に付き破毀す可きものと認むる上は他の論点に対し説明するの要なし。
(判旨第一点)
己上説明する如くなるを以て民事訴訟法第四百四十七条第一項に依り原判決の全部を破毀し尚ほ同法第四百四十八条に依り更に弁論及び裁判を為さしむる為め事件を東京控訴院に差戻すを相当とす。
是れ主文の如く判決する所以なり。