不當利得取戻請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）4輯6巻64頁

上告論旨第二点は原院が控訴人（即上告人）の人証申立を却下し本件公債証書所有権の訴外人野口末次郎より控訴人（上告人）に移転したる事実の立証なきを以て該公債証書の所有権は依然野口末次郎に存し控訴人（即上告人）は之れが所有者にあらざるを以て本訴請求の権利なきこと明かなりと判決したるは上告人が唯一の立証方法を拒絶し不当に事実を確定したる不法あるものとす。 （事実関係上告人が原院に於ける事実の主張は軍役職工請負保証金なる公債証書は控訴人の所有にして訴外人飯田一二の所有にあらず。 故に飯田一二に対する債権の為め奪取せらるる理由なしと主張し該公債証書の出所原因に付、訴外人野口末次郎より上告人の所有に移したるものなりと主張したり。 右主張の事実は判決事実記載の部（訴外人野口末次郎より借受けたるものにして同人へは別に金七百円の借用証書を差入れ置きたれば右公債証書は控訴人に処分権ありと申立云云）に於て明白なる事実とす。 而して[しこうして]野口末次郎上告人間に於ける所有権移転の事実に付ては被で人即上告人の争はざる事実なれども上告人は慎重に右事実を立証せん為め野口末次郎を証人として喚問あらんことを申請せり。 而して[しこうして]右証人喚問事項は簡単にせよ第三回口頭弁論調書に於て明白なりとす。 即ち（野口末次郎を証人として保証金は控訴人の手元より出し事実並に其保証に供したる公債証書は野口末次郎より控訴人に貸与へたる事実を立証の為め調問を申請す）とあるに於て明白なりとす。 即ち調問事項の第一は陸軍省に納付したる保証金即ち公債証書は野口末次郎のものとして納めたるものなりや将た[はた]上告人のものとして納めたるものなりやの事実を立証せん為め控訴人（即上告人）手元より出し事実の訊問を求め第二は控訴人（即上告人）の所有に移りたる原因たる事実即ち消費貸借たる事実の訊問を求めたるものなりとす。 然るに原院は本件公債証書の訴外人野口末次郎より上告人に移転したりとの主張を確むる唯一の立証方法即ち野口末次郎なる証人申請を却下し上告人が主張に対し口頭無証の陳述と為し該公債証書の所有権は依然野口末次郎に存し上告人に所有権なしと判定したるは上告人が唯一の立証方法を拒絶し不当に事実を確定したるものにして証拠に関する訴訟手続上違法の判決なりとす。 尤も[もっとも]判決末段に於て証人申請却下の理由を説明せられたるも（第一）訊問事項に属する第一項を遺脱し（第二）借受たりとの証明は必要ならずと云ふ[いう]に在れども本件無記名公債証書貸借は特に融通使用を禁ぜざる限りは流通貨幣と一般貸借により直ちに所有権移転するものにして借りたりとの証明は。 即ち消費貸借を証明するの意味にして、即ち所有権移転を証明すること明なるのみならず上告人が原院に於ける事実申立即ち本件公債証書を野口末次郎より借受くるの際同人に対しては金七百円の借用証書を差入れ別途の貸借と為したれば公債証書の所有権は控訴人に移りたりとの陳述に於て右借受たりとの事実の証明は消費貸借にあること明白なれば原判決に於ける証人申請却下の理由は毫も[ごうも]唯一の立証方法を拒絶すべき説明とならず到底証拠拒絶の瑕瑾は免るべからざる所なりと云ふ[いう]に在り因りて審案するに上告人は原院に於て本件公債証書を野口末次郎より借り受くる際同人に対しては金七百円の借用証書を差入れ別途の貸借と為したれば公債証書の所有権は上告人に移転したりと主張し、而して[しこうして]此事実を立証せん為め野口末次郎の証人調問を申請したるに原院は之を不必要として採用せざりしことは共に口頭弁論調書に徴して明かなり。 然るに原院は上告人に於て本件公債証書の所有権が自己に移転したりとの事実を立証せずと為し本件公債証書の所有権は却て野口末次郎に在りて上告人に在らざる旨判定し因りて上告人の本訴請求を排斥したり。 是れ上告人立証の途を杜絶して不当に事実を確定したる不法の裁判たるを免がれざるものとす。 依りて上告論旨は其理由あり既に此点に於て原判決は破毀すべきものなるにより自余の各論点に付き一一説明を与へるの必要なし。 （判旨第二点）

以上の理由に依り民事訴訟法第四百四十七条第四百四十八条に従ひ主文の如く判決するものなり。