明治三十年第三百一號
明治三十年五月十九日第二民事部判决
◎判决要旨
- 一 一定ノ申立ハ起訴者カ事件ニ付キ如何ナル判决ヲ請求スルニ在ルヤ其意思ヲ表示セシムル爲メノ要件ナレハ其請求ノ主旨ヲ明記スレハ足リ必スシモ訴求ノ目的物ヲ逐一列記スルノ要ナシ(判旨第一點)(第三輯第四卷所載明治二十九年第二百八十六號判决參看)
上告人 河津暹
訴訟代理人 朝倉外茂鐵 樫原三四郎
被上告人 千脇源八郎 外一名
右當事者間ノ地所書入登記囘復請求事件ニ付東京控訴院カ明治二十九年四月十八日言渡シタル判决ニ對シ上告代理人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ爲シ且被上告人ハ期日出頭セサルニ付闕席ノ侭判决アリタキ旨申立タリ
判决
原判决ヲ破毀シ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ東京控訴院ニ差戻ス
理由
上告論旨第一點ハ原院判决理由中當院ハ職權ヲ以テ一件記録ヲ調査スルニ被控訴人即原告カ明治二十八年八月三十日第一審裁判所ニ提出シタル訴状一定申立ニ云々トアリ又明治二十八年十月十四日第一審裁判所ニ提出シタル訴訟訂正申請ニモ云々トアリ孰レモ字番號段別ヲ記載セサルモノナレハ前掲五十五筆ノ地所ハ如何ナル地所ヲ指示シタルモノナルヤ之レヲ知ルニ由ナシ然則本訴ハ民事訴訟法第百九十條第三號ノ要件ヲ具備セサルモノナルヲ以テ不適法トシテ却下スヘキモノトス云々トアリ而シテ第一審裁判所ヘ提出シタル上告人ノ訴状ヲ見ルニ請求目的ノ點ニハ五十六筆ノ地所ヲ悉ク列記シアリテ又一定ノ申立ノ所ニハ右ノ次第ナルヲ以テ被告源八郎ハ原告ニ對シ下總國千葉郡更科村大字上州五十九番字上表耕池内田八畝二十五歩(此ノ一筆ハ請求目的ノ所ニ列記アル初筆ノ地所ニシテ其以下カ即五十五筆ノ地所ナリ)外五十五筆ノ地所ニ付云々トアルヲ以テ外五十五筆ノ地所ハ請求目的ノ處ニ列記アル右一筆ノ地所以下ノ五十五筆ノ地所ヲ指示シタルコトハ自ラ知ルニ足ルヘク加之第一審裁判所判决主文ニ於テモ亦(上畧)田八畝二十五歩外訴状列記ノ五十五筆ノ地所ニ付云々ト即訴状列記云々ト證シアルニ於テオヤ故ニ五十五筆ノ地所ハ何ツレヨリ見ルモ其請求目的ノ初筆以下ノ五十五筆ノ地所ヲ指示シタルコト明瞭ナリ然ルニ原院ニ於テ五十五筆ノ地所ハ如何ナル地所ノ指示シタルヤ知ルニ由ナク云々ト言渡シタルハ甚タ不法ノ判决ナリ若シ原院判决ノ理由ノ如ク一定ノ申立ノ個所ニ於テ五十六筆ノ地所ヲ悉ク列記シ且又請求目的ノ個所ニ於テモ亦五十六筆ノ地所ヲ悉ク列記スルトセハ唯ニ重複(重複ニ記スルモ差支ナキモ)ノ繁アルノミニシテ何等ノ効用ナカルヘシ故ニ同條ハ右樣ノ精神ニアラサルヘシ又同條ヲ見ルニ三個ノ條件ヲ具備スルヲ要ス云々トアリテ請求ノ目的及一定ノ申立ノ點共ニ悉ク詳記スヘシトアラス而シテ該訴状一定申立ノ個所ニアル五十五筆ノ地所ト云フモノハ請求目的ノ個所ニ列記スル初筆一筆ノ地所ノ外何レニモアルコトナシ左レハ其五十五筆ノ地所ハ請求目的ノ五十六筆ノ内ノ五十五筆ノ地所ヲ指示シタルコト明知スルニ足ルヘシ然ルニ知ルニ由ナク云々ト言渡セシ原院ノ判决ハ法則ヲ不當ニ廸用シタル不法ノ判决ナリト云フニ在リ按スルニ民事訴訟法第百九十條第三號ニ所謂一定ノ申立ハ起訴者カ事件ニ付如何ナル判决ヲ請求スルニ在ルヤ其意思ヲ表示セシムル爲メノ要件ナレハ其請求主旨ヲ明記スレハ足レリ必シモ之ニ訴求ノ目的物ヲ逐一列記セサルヘカラサルノ要アルモノニアラス今本件ノ訴訟記録ニ就キ第一審廷ニ提出シタル訴状ヲ閲スルニ上告人カ前ニ掲クル所ト同一ノ記載アリテ二項相參照スレハ所謂外五十五筆ノ何物タルコトハ實ニ明了ニシテ毫モ不適式ト見ルヘキ廉ナキニモ拘ラス原裁判ニ於テ外五十五筆トハ如何ナル地所ヲ指スヤ之ヲ知ルニ由ナシトテ民事訴訟法第百九十條第三號ノ要件ヲ欠クモノト爲シ訴訟却下ノ言渡ヲ爲シタルハ法則ヲ不當ニ適用シタルモノニテ上告人ノ申告スル所其理由アリトス既ニ此點ニ於テ原裁判ヲ破毀スヘキモノト决スル以上ハ他ノ上告點ニ對シ一々説明ヲ與フルノ必要ナキニ付別ニ説明セス(判旨第一點)
上文辯明ノ理由ナルヲ以テ民事訴訟法第四百四十七條第一項ニ從ヒ原判决ヲ破毀シ同第四百四十八條第一項ニ從ヒ更ニ辯論及ヒ裁判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ東京控訴院ニ差戻ス
明治三十年第三百一号
明治三十年五月十九日第二民事部判決
◎判決要旨
- 一 一定の申立は起訴者が事件に付き如何なる判決を請求するに在るや其意思を表示せしむる為めの要件なれば其請求の主旨を明記すれば足り必ずしも訴求の目的物を逐一列記するの要なし。
(判旨第一点)(第三輯第四巻所載明治二十九年第二百八十六号判決参看)
上告人 川津暹
訴訟代理人 朝倉外茂鉄 樫原三四郎
被上告人 千脇源八郎 外一名
右当事者間の地所書入登記回復請求事件に付、東京控訴院が明治二十九年四月十八日言渡したる判決に対し上告代理人より全部破毀を求むる申立を為し、且、被上告人は期日出頭せざるに付、闕席の侭判決ありたき旨申立たり
判決
原判決を破毀し更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を東京控訴院に差戻す
理由
上告論旨第一点は原院判決理由中当院は職権を以て一件記録を調査するに被控訴人即原告が明治二十八年八月三十日第一審裁判所に提出したる訴状一定申立に云云とあり又明治二十八年十月十四日第一審裁判所に提出したる訴訟訂正申請にも云云とあり孰れも字番号段別を記載せざるものなれば前掲五十五筆の地所は如何なる地所を指示したるものなるや之れを知るに由なし。
然則本訴は民事訴訟法第百九十条第三号の要件を具備せざるものなるを以て不適法として却下すべきものとす。
云云とあり。
而して第一審裁判所へ提出したる上告人の訴状を見るに請求目的の点には五十六筆の地所を悉く列記しありて又一定の申立の所には右の次第なるを以て被告源八郎は原告に対し下総国千葉郡更科村大字上州五十九番字上表耕池内田八畝二十五歩(此の一筆は請求目的の所に列記ある初筆の地所にして其以下が即五十五筆の地所なり。
)外五十五筆の地所に付、云云とあるを以て外五十五筆の地所は請求目的の処に列記ある右一筆の地所以下の五十五筆の地所を指示したることは自ら知るに足るべく加之第一審裁判所判決主文に於ても亦(上略)田八畝二十五歩外訴状列記の五十五筆の地所に付、云云と即訴状列記云云と証しあるに於ておや故に五十五筆の地所は何つれより見るも其請求目的の初筆以下の五十五筆の地所を指示したること明瞭なり。
然るに原院に於て五十五筆の地所は如何なる地所の指示したるや知るに由なく云云と言渡したるは甚た不法の判決なり。
若し原院判決の理由の如く一定の申立の個所に於て五十六筆の地所を悉く列記し、且、又請求目的の個所に於ても亦五十六筆の地所を悉く列記するとせば唯に重複(重複に記するも差支なきも)の繁あるのみにして何等の効用なかるべし。
故に同条は右様の精神にあらざるべし又同条を見るに三個の条件を具備するを要す。
云云とありて請求の目的及一定の申立の点共に悉く詳記すべしとあらず。
而して該訴状一定申立の個所にある五十五筆の地所と云ふものは請求目的の個所に列記する初筆一筆の地所の外何れにもあることなし左れば其五十五筆の地所は請求目的の五十六筆の内の五十五筆の地所を指示したること明知するに足るべし。
然るに知るに由なく云云と言渡せし原院の判決は法則を不当に廸用したる不法の判決なりと云ふに在り按ずるに民事訴訟法第百九十条第三号に所謂一定の申立は起訴者が事件に付、如何なる判決を請求するに在るや其意思を表示せしむる為めの要件なれば其請求主旨を明記すれば足れり必しも之に訴求の目的物を逐一列記せざるべからざるの要あるものにあらず。
今本件の訴訟記録に就き第一審廷に提出したる訴状を閲するに上告人が前に掲ぐる所と同一の記載ありて二項相参照すれば所謂外五十五筆の何物たることは実に明了にして毫も不適式と見るべき廉なきにも拘らず原裁判に於て外五十五筆とは如何なる地所を指すや之を知るに由なしとて民事訴訟法第百九十条第三号の要件を欠くものと為し訴訟却下の言渡を為したるは法則を不当に適用したるものにて上告人の申告する所其理由ありとす。
既に此点に於て原裁判を破毀すべきものと決する以上は他の上告点に対し一一説明を与ふるの必要なきに付、別に説明せず(判旨第一点)
上文弁明の理由なるを以て民事訴訟法第四百四十七条第一項に従ひ原判決を破毀し同第四百四十八条第一項に従ひ更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を東京控訴院に差戻す