私文書僞造行使詐欺竝僞造公文書知情行使詐欺ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）18輯1563頁
大正元年（れ）第二〇四八號
大正元年十二月二十日宣告
◎判決要旨
- 一 僞造證書ハ無價値ノモノナルノミナラス所有權ノ目的物ト爲ラサルヲ以テ之ヲ騙取スルモ詐欺罪ヲ構成セス（判旨第一點）
- 一 僞造文書ノ騙取ニ付テハ詐欺ノ罪責ナキモ之カ爲メ特ニ無罪ノ言渡ヲ爲スヘキモノナラサルハ勿論假令右僞造文書ヲ除去スルモ他ニ詐欺ノ目的ト爲リ得ヘキモノアリテ詐欺罪ヲ構成スルモノナルトキハ之ヲ詐欺罪ニ問擬スルモ擬律ノ錯誤ニ非ス（同上）
第一審 名古屋地方裁判所
第二審 名古屋控訴院
右私文書僞造行使詐欺竝ニ僞造公文書知情行使詐欺被告事件ニ付大正元年九月二十八日名古屋控訴院ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
辯護人法學博士花井卓藏辯護人渡邊澄也上告趣意書第一點原判決ハ第六ノ事實トシテ「粟田岩麿名義ノ金二百圓ノ借用證書同特約依頼證同利子承諾書云云ヲ僞造シ云云鈴木鶴太郎方ニ於テ之ヲ同人ニ提出シ云云先ニ鶴太郎ニ差入レ置キタル岩麿名義ノ金二百圓ノ借用證書同特約依頼證同利子承認書及ヒ金百六十六圓ヲ交付セシメテ之ヲ騙取シ」ト判示シ被告カ前ニ僞造シテ鶴太郎ニ交付シ置キタル岩麿名義ノ借用證書等ヲ鶴太郎ヨリ騙取シタル所爲ヲ以テ詐欺罪ヲ構成スルモノト認定セリ然レトモ僞造證書ハ財産上ノ價値ヲ有セサルヲ以テ詐欺罪ノ目的物ト爲ルモノニ非サルコト勿論ナルニ拘ラス前記認定事實ニ對シ刑法第二百四十六條第一項ヲ適用處斷シタル原判決ハ擬律錯誤ノ不法アルモノト信スト云フニ在レトモ◎僞造證書ハ無價値ノモノナルノミナラス所有權ノ目的物ト爲ラサルヲ以テ之ヲ騙取スルモ詐欺罪ヲ構成セサルコトハ本院判例ノ夙ニ認ムル所ナリ（明治四十二年（れ）第九三五號公私文書僞造行使詐欺取財等上告事件判決參看）而シテ原判決ニ依レハ所論借用證書特約依頼證利子承認書等ハ何レモ被告カ僞造シテ鈴木鶴太郎ニ差入置キタルモノニシテ詐欺ノ目的ト爲リ得ヘキモノナラサルニ原院カ之ヲ詐欺ノ目的物中ニ加ヘ右僞造文書ニ對シテモ被告ニ詐欺ノ罪責アルモノノ如ク擬律ヲ爲シタルハ失當タルヲ免レスト雖モ右僞造文書ハ被告カ一ノ欺罔手段ヲ以テ鈴木鶴太郎ヲ欺キ金百六十六圓ト共ニ自己ニ交付セシメタルモノナレハ僞造文書ノ點ニ付テハ被告ニ詐欺ノ罪責ナキモ之カ爲メ特ニ無罪ノ言渡ヲ爲スヘキモノナラサルハ勿論假令右僞造文書ヲ除去シタリトスルモ原判決第六事實後段ノ行爲ハ他ニ詐欺ノ目的ト爲リ得ヘキモノアリテ詐欺罪ヲ構成スルモノナレハ原院カ該行爲ヲ詐欺罪ニ問擬シタルヲ擬律ノ錯誤ナリトシテ原判決ヲ破毀スルニ足ラサルヲ以テ本論旨ハ上告ノ理由ナシ（判旨第一點）
第二點原判決ハ第六事實ニ於テ「擅ニ白紙ヘ届粟田岩麿ト記載シ以テ其署名ヲ僞造シ」ト判示シ被告ハ岩麿ノ署名ヲ僞造シタルモノト認定シナカラ何等ノ擬律ヲ爲ササルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎原判決第六事實ニ對スル法律適用ノ部ヲ見ルニ所論署名僞造ノ點ニ對シ刑法第百六十七條第一項ヲ適用シアルヲ以テ本論旨ハ上告ノ理由ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事鈴木宗言干與大正元年十二月二十日大審院第一刑事部
