誘拐ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）17輯497頁
明治四十四年（れ）第三五二號
明治四十四年三月三十一日宣告
◎判決要旨
- 一 實際上意思能力アル未成年者ト雖モ苟モ之ヲ欺罔シテ他所ニ誘致シ自己ノ支配内ニ置クトキハ誘拐罪ヲ構成スルモノトス
第一審 松山地方裁判所
第二審 廣島控訴院
右誘拐被告事件ニ付明治四十四年一月十四日廣島控訴院ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
辯護人横山勝太郎上告趣意書第一點所謂誘拐罪ハ意思能力ナキモノヲ自己ノ支配内ニ致シタル場合ニ成立スルモノナルニ本件西村タケヨハ犯行當時十九歳ニシテ民法上無能力ナリト云フニ止マリ實際上意思能力ヲ有スルモノナルヲ以テ刑法第二百二十五條ノ犯罪ヲ成立スルニ由ナキモノトス此點ニ於テ原判決ハ不法ナリト云ヒ」第二點本件ハ未成年者ヲ誘拐シタルモノナルヲ以テ寧ロ刑法第二百二十四條ヲ適用スヘキモノト信ス尚ホ情状輕微ニシテ刑ノ執行猶豫ノ理由アルモノト思料スト云フニ在レトモ◎原判決ノ事實認定ニ依レハ被告ヒデハ愛媛縣西宇和郡八幡濱町字沖新田飮食店松下トミ方ニ下女奉公ヲ爲シ居タル同町西村省三ノ養女タケヨ（當時十九歳）ヲ他地方ニ誘出シ同人ヲ利用シテ不正ノ利益ヲ得ンコトヲ企テ判示方法ニ依リ同人ヲ欺罔シテ大分縣速見郡別府町ニ連行キ娼妓稼ヲ爲サシメントシテ遂ケス其後同縣同郡御越町字龜川判示飮食店ヘ奉公ヲ爲サシメ前借金三十圓ヲ受領シタルモノニシテ實際上意思能力アル未成年者ニ對シテモ苟クモ之ヲ欺罔シテ他所ニ誘致シ自己ノ支配内ニ置ク以上ハ誘拐罪ヲ構成スヘク而シテ本件ノ如ク營利ノ目的ヲ以テ誘拐シタルトキハ被誘拐者カ未成年者タルト否トヲ問ハス刑法第二百二十五條ノ罪ヲ以テ論スヘキナリ然レハ右判示事實ニ對シ同法條ヲ適用處罰シタル原判決ハ正當ナリトス從テ第一及第二論旨ノ前段ハ理由ナク第二論旨ノ後段ハ原院ノ職權ニ屬スル刑ノ執行ヲ猶豫スヘキ情状ノ有無ニ關スル判斷ヲ非難スルモノナレハ上告適法ノ理由トナラス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事板倉松太郎干與明治四十四年三月三十一日大審院第一刑事部
