官文書僞造行使官印盜用監守盜委託金費消竝附帶私訴等ノ件

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大審院刑事判決録（刑録）16輯800頁

原公訴判決中被告武一に関する部分を破毀し

被告武一を軽懲役七年に処す

押収物件中偽造に係る明治三十六年一月より同三十七年九月までの各看守俸給明細書看守被服帯具

費明細書同三十八年一月七月八月分各看守俸給明細書同三十六年一月より同三十七年十月までの分

看護俸給被服帯具費仕払に関する各仕払命令原符、案内仕払命令及仕払命令同三十八年一月二月六

月七月八月分看護俸給仕払に関する各案内仕払命令及仕払命令書

仕払予算簿中偽造に係る明治三十六年一月より同三十七年九月までの各看守俸給額看守被服帯具費

額同三十七年十月分看守被服帯具費額同三十八年一月二月六月七月八月分各看守俸給額記入の部分

偽造に係る明治三十六年十一月同三十七年一月二月六月分高橋庫造手当仕払に関する各仕払命令原

符、案内仕払命令及仕払命令並に同三十七年二月六月分高橋庫造の手当に付ての各雑給雑費の明細

書

仕払予算簿中偽造に係る明治三十六年十一月同三十七年一月二月六月分高橋庫造手当額記入の部分

偽造に係る明治三十七年五月分井上多一郎俸給仕払に関する仕払命令原符、案内仕払命令及仕払命

令書

仕払予算簿中偽造に係る明治三十七年五月分井上多一郎俸給額記入部分石田「てる」の明治四十年

度高松監獄附属溜池に於ける水払下代金見積書中偽造に係る売却決議書の部分

不用物品受払簿中偽造に係る払受人石田「てる」の明治四十年度分溜池の水払下代金記入の部分は

何れも之を没収し其他は総で各差出人に還付す

公訴訴訟費用中橘繁三郎、藤本善次、井上多一郎、高橋庫造、土井藤吉に支給したるものは被告武

一に於て第一審共同被告たりし真辺三弥と又石田てる及松本利吉（松本利吉に付ては予審中に生じたるものに限る。 ）に支給したるものは被告武一に於て原審共同被告たる川野磯次と各連帯負担す可し

被告武一の私訴上告及被告磯次の公私訴上告は其に之を棄却す

私訴上告費用は私訴上告人の負担とす。

被告磯次弁護人横山勝太郎公訴上告趣意書第一点原判文事実第二に「被告磯次は高松監獄看守長と為り第三課長として在職し営繕建築及官有物保管物品会計等の事務司掌中……不用の古瓦古竹木古石等を……数次に売却し同人等より高松監獄署に納付すべき代金を受取りながら其代金の内三十九円八銭五厘及高松市西瓦町森田直造が……実父森田直市に於て直造に代り同監獄署に弁償せんか為め持参したるを受取りたる六円七十九銭六厘を同監獄に納付せずして……数回に意思連続して高松市に於て其当時同監獄典獄たりし前記亡松島四郎の私用の為め其他に擅に[ほしいままに]費消したり。」と判示し以て旧刑法第三百九十五条前段刑法第二百五十二条第一項に問擬せり。 然れども[しかれども]此判決は左の如き三箇の不法を包含せり(1)原判文は単に「代金を受取りながら」或は「持参したるを受取りたる」と判示したるのみにして被告が該金員に対し如何[いかん]なる法律関係換言すれば所謂受取云云とは委託を受けたりと云ふ[いう]に在るか或は受領の権限あるが如く表示し之れを騙取[へんしゅ]したるに在るか行文簡にして其関係を知悉するに由なく。 従て直ちに横領罪に関する規定を適用するに由なき理由不備なり。 (2)又原判文の趣旨は被告の費消したる金員は之を何人より委託を受けたるものとするに在るか不明なり。 即ち納付したる各個人より委託を受けたるものとするか或は高松監獄署の金員を受託中費消したるものとするか換言せば被害者の方面を認定せざるものにして被告が何人に対し横領の所為あるか理由不備にして結局横領罪の規定を適用するに由なき不法の裁判なり。 (3)又原判決は被告が亡松島四郎の私用に使用したる事実を認定し横領罪に問擬せりと雖[いえども]も所謂横領罪とは一の奪取行為にして財物を不正に犯人が領得するの事実ならざる可からず。 従て原判決は擬律の錯誤ある不法の裁判なり。 要之横領罪の客体は委託の物件ならざる可からず。 即ち犯人が他人の物を受託せる場合に於て不正に領得するの意を以て之を奪取したる事実ならざる可からざるに原院が前掲の如き事実を認定し漫然之を横領罪に問擬したるは刑法第二百四十七条を適用す可き事実との分界を知悉する能はざるものにして結局理由不備擬律錯誤の不法を包含する裁判なりと信ずと云ふ[いう]に在れども◎原判決を査閲するに同判決は判示第二事実として被告磯次が個人たる資格に於て高松監獄署に納付すべき払下品買受代金の納付方を判示各代金納付義務者より委託せられ又森田直市より同監獄署へ判示弁償金の納付方を委託せられ右各委託に基き受領したる判示の金員を同監獄に納付せずして松島四郎の私用の為め其他の用途に擅に[ほしいままに]費消したる事実を認定したるものなること同判文に徴して明了なりとす。 而して[しこうして]横領罪の成立には自己の占有する他人の物を不法に領得することに依て成立し他人の為に費消する行為も亦[また]領得の一方法に属するを以て右判示事実は刑法第二百五十二条第一項に規定する横領罪に該当し同法第二百四十七条の罪に該当せず。 従て原判決は所論の如き理由不備擬律錯誤の違法あることなく本論旨は総で理由なし。

第二点原院は被告の偽造したりと目せらるる虚偽の決議案及不用物品受払簿の偽造行使に対し旧刑法第二百五条刑法第百五十六条等を適用処断したるも原判文上此等の文書が如何[いかん]なる理由によりて官文書――公務所の文書たるか明瞭ならず凡そ官文書なるものは法令の規定若くは官庁の内達慣例等に於て作成せられたるものならざる可からず。 然るに原院に於ては毫も[ごうも]此等の事実問題を解決せずして漫然刑を言渡したるは理由不備なる不法の裁判なり。 （御院判例三十五年六巻一〇六頁三十九年一二三頁三十九年一一八三頁参照）と云ふ[いう]に在れども◎所論原判決第三事実判示中に所謂決議案及不用物品受払簿は被告磯次が香川県高松監獄第三課長として判示の公務員たる職務に関し作成す可き文書なることは同判文の説明に依て自から之を認むることを得べく原判決は所論の点に関して理由不備の違法あることなく本論旨は理由なし。

第三点原院は第三事実に付き証人石田てるの予審訊[しんじん]問調書を採で有罪の資料に供したれども今同調書を閲するに被告人松島四郎、野木武一、川野磯次の三名に対する関係の身分調査を為したるに止まり（丙第百九十一丁）当時共犯者として起訴せられたる（甲第三〇丁及び乙の一の百十一丁）真辺三弥との間の資格調査を為さざりしものにして該調書は法律上証拠力を有するものに非ず。 然るに原院が之を有罪の資に供したるは不法の裁判なりと云ふ[いう]に在れども◎所論石田てるは被告磯次同武一に対する予審終結決定書掲載の第三事実に該当する公訴事実のみに付き証人として予審判事の訊問を受けたるものなることは同証人予審調書の記載に徴して明了なりとす。 然れば予審判事が同証人と被告磯次同武一との間に於ける法定の身分関係を問査し証人たる資格に牴触[ていしょく]なきことを確めたる以上は右両被告に対する他事件の共犯人たる真辺三弥と同証人との間に於ける法定の身分関係を問査せず同人を証人として宣誓せしめ之を訊問したるは違法にあらず。 従て所論の同証人予審調書は有効にして法律上証拠力を有するが故に本論旨は理由なし。

同弁護人私訴上告趣意書本件公訴判決は公訴上告趣意の如く不法の裁判なるを以て本件私訴も亦[また]破毀せらる可きものとす。 茲に[ここに]公訴上告理由全部を援用すと云ふ[いう]に在れども◎本趣意書に援用したる同弁護人提出の公訴上告理由の何れも理由なきことは前に同各論旨に対して説明したる如くなるを以て本論旨も亦[また]理由なきに帰す

被告武一弁護人山浦橘馬上告趣意書第一点事実の認定証拠の採否は原審の職権に専属するは勿論なれども採証に於ては証人の陳述其他を問はず殊に証人の陳述の如きは其陳供の辞は之れを其儘引用すべくして決して改造補綴[ほてつ、ほてい]を許すべきものにあらず。 是れ刑事訴訟法第二十一条の規定に鑑みて之れを窺ふを得べし。 然るに原判文に於ける断罪の資料たる証人上山為一同林弘道同橘繁三郎同高橋庫造同井上多一郎同上田てる等の予審調書を査閲するに孰れ[いずれ]も原判文引用の如くならずして大に趣を異にせり是れ原審は其職権を超越して不法にも原文原辞を解崩して認定の事実に適合せしむる様新たに改造補綴[ほてつ、ほてい]し恰も[あたかも]予審調書に爾があるものの如く引証せられたるは結局虚無の認定と異るなき不法の裁判なりと云ふ[いう]に在れども◎事件関係者の供述記載の書類を証拠に援用するに当ては其供述の趣旨を摘示するを以て足れりとし供述記載の文詞其儘を引用するの要なく且つ所論の各証人予審調書記載の各証人供述の趣旨は原判決に摘示する所と同一にして本論旨は畢竟[ひっきょう]原院の職権に属する証拠の判断を非難するものにして上告適法の理由とならず

第二点第一の事実として要するに総で虚無の氏名を作為し之れを看守として在勤せるものの如く他の実在せる看守の氏名と共に列記し俸給正当額を偽りて多額に看守俸給明細書に記載し又虚無の氏名に於ける被服帯具費を正当額以上に看守被服帯具費明細書に記載して之れを同署に備付け仕払命令書用紙を利用して右虚偽の多額の金額を記入して前記俸給及被服帯具費に関する仕払命令原符案内仕払命令及仕払命令書を作成し各其要部に四郎の監守せる仕払命令官の官印を擅に[ほしいままに]押捺し以て之れを完成し右仕払命令原符は同署に保存の為め備付け案内仕払命令書は仕払通知の為め高松市高松本金庫に送付し之れと同時に同署備付の仕払予算簿に右虚偽の俸給及被服帯具費額を記入し―月―日―頃右作製の仕払命令書を同本金庫に提出交付して命令書所載の金額を受領し前記俸給及被服帯具費に関する過額を横領したりと認められたり。 而して[しこうして]其横領したりとの金員は右認むるが如く高松本金庫の保管若くは占有にして毫も[ごうも]上告人の保管若くは占有に係るものにあらざるは昭昭乎として明かなりとす。 然らば之を横領と為すこと能はざるは明かなるに之れを横領したりとし又之れに対する法律適用の部に於ても旧刑法第二百八十九条新刑法第二百五十三条に問擬せられたるも亦[また]不法の裁判なりと云ふ[いう]に在り◎依て按ず[あんず]るに原判決に於て第一事実として認定したる所に依れば被告武一は判示の如く不法利得の目的を以て虚偽の案内仕払命令書及仕払命令書を作成し之を高松市高松本金庫に於て行使し因で同金庫係員を欺罔し同金庫より判示の金額を不正に受領したるものにして右判示受領の金員は被告が保管するものにあらずして判示高松本金庫の保管に属するものなれば被告武一が判示欺罔手段に依り右金額を領得したる点は旧刑法に在ては同法第三百九十条第一項に刑法に在ては同法第二百四十六条第一項に規定する詐欺取財に該当すべきものなり。 然るに原判決に於て同判示事実を旧刑法第二百八十九条、刑法第二百五十三条に問擬したるは擬律に錯誤ある違法の判決にして本論旨は理由あり原判決中被告武一に関する部分は破毀を免れざるものとす。

第三点新刑法適用の部に次きて新法に擬するに被告武一の判示第一の所為中虚偽の各俸給明細書虚偽の各被服帯具明細書虚偽の各雑給雑費明細書虚偽の各仕払命令原符虚偽の各案内仕払命令虚偽の各仕払命令虚偽の各仕払予算簿の作成行使及各金銭横領は孰れ[いずれ]も各領続したる数箇の行為にして同一の罪各に触るるものなるを以て各刑法第五十五条に依り各別に一罪として処断すべく云云とあれども以上列記は共に官文書偽造行使及金銭横領にして又共に連続したる数箇の行為にして同一の罪名に触るるものなることを認めて之れを新刑法第五十五条に擬する以上は各別に之れを一罪と為すべきにあらざるは法文上明かなり。 若し又之れを各別に一罪と為さんか以上列記の官文書偽造行使及金銭横領を分類し更に理由を付して之れを説明するにあらずんば得て明瞭すべからず。 是れ右第五十五条を不当に適用し且つ理由を欠く不法の裁判なりと云ふ[いう]に在に◎依て按ず[あんず]るに刑法の適用に於て同法第五十五条は同法第五十四条に先ち之を適用す可きものなりと雖[いえども]も原判決第一事実中に判示する被告武一が同一犯意に基き反覆して自己の職務に関する判示虚偽の各俸給明細書、各被服帯具明細書、各雑給雑費明細書各支払命令原符、各案内仕払命令書、各仕払命令書、各仕払予算簿を作成したる数行為は之を包括的に観察して刑法第百五十六条第百五十五条第一項に該当する虚偽の文書作成罪なる一箇の連続犯たるべく以上の各虚偽の官文書を反覆行使したる数行為は之を包括的に観察して同法第百五十八条第一項第百五十六条第百五十五条第一項に該当する虚偽の文書行使罪なる一箇の連続犯たるべく判示の各詐詐取財の反覆行為（同弁護人提出上告趣意書第二点に対する説明参照）は之を包括的に観察して刑法第二百四十六条第一項に該当する詐欺罪なる一箇の連続犯たる可きものとす。 然るに原判決の擬律に於て判示虚偽の文書中其種類名称を異にする毎に各独立して虚偽の文書偽造及同文書行使の各連続犯を構成すと為し又判示詐欺取財たる反覆行為に対して横領罪たる連続犯を構成すと説明したるは擬律に錯誤ある違法の判決にして本論旨は結局理由あるに帰し原判決中被告武一に関する部分は破毀を免れざるなり。 （判旨第七点）

第四点押収物件中偽造に係る数多の偽造官文書を没収せらるるに当に何れも旧刑法第四十三条第一号第四十四条に依り各之れを没収すとあれども判文中偽造に係る官文書は旧刑法第四十三条第一号の法禁物たると同時に此等偽造の官文書により金員を詐取したるものなれば又犯罪の用に供したるものと言はざるを得ず。 然れば右旧刑法第四十三条第一号と共に同第二号も適用すべきを以て正当なりとす。 然るに右第二号を適用せざりしは亦[また]不法の裁判なりと云ふ[いう]に在れども◎同一物件にして同時に数箇没収の理由を具ふ[そなう]るときは其内何れば一箇の理由に依り之れを没収するを以て足れりとす。 従て本論旨は理由なし。 （判旨第八点）

被告武一は刑事訴訟法第二百七十八条規定の法定期間内に私訴上告趣意書を提出せず

右の理由なるを以て被告磯次の公私訴の上告及被告武一の私訴上告に付ては刑事訴訟法第二百八十五条に依り主文第五項第六項記載の如く判決すべく被告武一の公訴上告に付ては刑事訴訟法第二百八十六条但書第二百八十七条に依り原判決中同被告に関する部分を破毀し当院に於て直に判決を為すべきものとす。 仍て[よって]同被告に対し原判決に於て認めたる事実に付、之を法律に照すに本件は刑法施行前の犯罪に係り犯罪後の法律に因り刑の変更ありたるを以て刑法第六条に依り新旧法の軽重を比照し其の軽きものを適用すべきものとす。 仍て[よって]旧刑法に擬するに被告武一の判示第一の所為中連続せる金銭騙取[へんしゅ]の点は之を包括して同法第三百九十条第一項に各種の明細書、仕払命令原符、案内支払命令、仕払命令書の連続せる偽造行使の点は之を包括して同法第二百五条第一項第二百三条第一項に該当し以上文書偽造行使は何れも所犯原諒すべきを以て同法第八十九条第九十条に依り其本刑に各一等を減じ仕払命令原符、案内支払命令、仕払命令書に各連続して官印を盗用したる点は之を包括して同法第百九十七条第一項第百九十五条に該当し其所犯原諒すべきを以て同第八十九条第九十条に依り何れも本刑に一等を減じ右各官印盗用は其仕払命令原符、案内仕払命令及仕払命令書を各偽造するに因で犯したるものなるを以て同法第二百六条に依り重き官文書偽造行使罪の刑に従ひ右官文書偽造行使は前掲金銭騙取[へんしゅ]を為すに因で犯したるものなるを以て同法第三百九十条第二項に依り重き官文書偽造行使罪の刑に従ひ処断すべく被告武一の判示第三の所為中委託金騙取[へんしゅ]の点は同法第三百九十五条後段第三百九十条第一項第三百九十四条に決議案及不用物品受払簿の各偽造行使の点は之を包括して同法第二百三条第一項に該当し右官文書偽造行使に付ては犯情原諒すべきものあるを以て同法第八十九条第九十条に依り各本刑に二等を減じ。 従て同第二百七条を適用し右官文書偽造行使は委託金騙取[へんしゅ]を為すに因で犯したるものなるを以て同法第三百九十五条後段第三百九十条第二項に依り重き官文書偽造行使罪の刑に従ひ処断すべき処以上数罪倶発に付き同法第百条に依り一の重き前記官印盗用官文書偽造行使詐欺取財罪の刑に従ひ処断すべきものに該当す次に刑法に擬するに被告武一の判示第一の所為中虚偽の各俸給明細書虚偽の各被服帯具費明細書、虚偽の各雑給雑費明細書、虚偽の各仕払命令原符、虚偽の各案内仕払命令虚偽の各仕払命令書、虚偽の各仕払予算簿の作成は之を包括して同法第百五十六条第百五十五条第

一項に該当する一箇の連続犯を以て論すべく右各虚偽の官文書行使の点は之を包括して同法第百五十八条第一項第百五十六条第百五十五条第一項に該当する一箇の連続犯を以て論すべく各金銭騙取[へんしゅ]の点は之を包括して同法第二百四十六条第一項に該当する一箇の連続犯を以て論すべきの処以上虚偽の官文書作成と同文書の行使とは互に手段たり結果たるの関係あり且つ同文書の行使は金銭騙取[へんしゅ]の手段なるを以て同法第五十四条第一項後段第十条に依り最も重き虚偽の官文書作成の罪に於ける刑を以て処断すべく被告武一の判示第三の所為中横領の点は同法第二百五十二条第一項に虚偽の決議案及不用物品受払簿を各作成したる点は之を包括して同法第六十五条第一項第百五十六条第百五十五条第三項に其之を各行使したる点は之を包括して同法第百五十八条第一項第百五十六条第百五十五条第三項に該当し以上虚偽の官文書作成と同文書の行使とは互に手段たり結果たる関係あり且つ其行使は横領の手段なるが故に同法第五十四条第一項後段第十条に依り最も重き虚偽の官文書作成罪に於ける刑に従ひ処断すべき処併合罪なるを以て同法第四十五条第四十七条第十条に依り判示第一の虚偽の官文書作成行使詐欺取財罪に於ける刑の長期に其半数を加へたるものを以て長期と為したる刑期範囲に於て処断すべきものに該当す

仍て[よって]刑法施行法第二条第三条刑法第十条に依り右新旧刑法の刑を比照するに旧刑法の刑軽きが故に前記の如く各旧刑法の条項を適用し被告武一を懲役七年に処し押収物件中偽造に係る明治三十六年一月より同三十七年九月迄の各看守俸給明細書、看守被服帯具費明細書、同三十八年一月、七月、八月分各看守俸給明細書、同三十六年一月より同三十七年十月迄の分看守俸給被服帯具費仕払に関する各仕払命令原符、案内仕払命令及仕払命令、同三十八年一月、二月、六月、七月、八月分看守俸給仕払に関する各案内仕払命令及仕払命令、仕払予算簿中偽造に係る明治三十六年一月より同三十七年九月迄の各看守俸給額、看守被服帯具費額、同三十七年十月分看守被服帯具費額、同三十八年一月、二月、六月、七月、八月分各看守俸給額記入部分、偽造に係る明治三十六年十一月、同三十七年一月、二月、六月分高橋庫造手当仕払に関する各仕払命令原符、案内仕払命令及仕払命令並に同三十七年二月、六月分高橋庫造の手当に付ての各雑給雑費明細書、仕払予算簿中偽造に係る明治三十六年十一月、同三十七年一月、二月、六月分高橋庫造手当額記入の部分、偽造に係る明治三十七年五月分井上多一郎俸給仕払に関する仕払命令原符、案内仕払命令及び仕払命令予算簿中偽造に係る明治三十七年五月分井上多一郎俸給額記入の部分石田てるの明治四十年度高松監獄附属溜池に於ける水払下代金見積書中偽造に係る売却決議書の部分不用物品受払簿中偽造に係る払受人石田てるの明治四十年度分溜池の水払下代金記入部分は何れも旧刑法第四十三条第一号第四十四条に依り各之を没収し其他は刑事訴訟法第二百二条に依り各差出人に還付し公訴訴訟費用中橘繁三郎、藤本善次、井上多一郎、高橋庫造、土居藤吉に支給したるものは刑事訴訟法第二百一条第一項刑法施行法第六十七条に依り被告武一に於て第一審共同被告たりし真辺三弥と連帯負担すべく石田てる、松本利吉（松本利吉に付ては予審中に生じたる分に限る。 ）に支給したるものは前記同一法条に依り被告武一に於て原審共同被告たりし川野磯次と連帯負担すべきものとす。 仍て[よって]被告武一に対しては主文第一項乃至[ないし]第四項記載の如く判決す

検事板倉松太郎干与明治四十三年五月六日大審院第一刑事部