明治三十三年れ第二七七號
明治三十三年四月二十三日宣告
◎判决要旨
裁判費用ノ連帶負擔ヲ命スル法則（刑法第四十七條）ハ數人共犯ノ場合ニノミ適用スヘキモノトス從テ竊盜罪ノ被告人ト盜贓牙保罪ノ被告人ニ公訴裁判費用ノ連帶負擔ヲ言渡シタル判决ハ不法ナリ
（參照）數人共犯ニ係ル裁判費用贓物ノ還給損害ノ賠償ハ共犯人ヲシテ之ヲ連帶セシム（刑法第四＄十七條）
公訴私訴上告人 古田作藏 外一名
私訴被上告人 小野庄藏
右作藏豊吉ニ對スル竊盜被告事件竝ニ之ニ附帶スル私訴ニ付明治三十三年二月十九日東京控訴院ニ於テ公訴ニ付テハ一審判决中被告作藏ニ關スル部分ヲ取消ス被告作藏ヲ重禁錮三年ニ處シ一年ノ監視ニ付ス被告豊吉ノ控訴ハ之ヲ棄却ス控訴裁判費用ハ被告兩名連帶シテ之ヲ負擔スヘシ現在ノ賍品ハ之ヲ被害者小野庄藏ニ還付シ其他ノ押收物件ハ各差出人ニ還付ス私訴ニ付テハ被控訴人小林豊吉ニ關スル部分ハ之ヲ廢棄シ被控訴人小林豊吉ハ吉田作藏ト連帶シテ金壹千貳百參十四圓ヲ控訴人小野庄藏ニ賠償スヘシ第二審ノ訴訟費用ハ豊吉作藏之ヲ負擔シ第一審ノ訴訟費用中作藏ノ負擔ニ屬セサル部分ハ豊吉之ヲ負擔スヘキ旨ヲ言渡シタル判决ヲ不當トシ被告兩名ハ上告ヲ爲シタリ依テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
被告兩名上告趣意書ハ本件被害者カ竊取セラレタリトスル繭ハ生繭ヲ乾燥シタル當然ノ結果其減少ヲ見ルニ至レルモノニシテ竊取セラレタル爲メニ減少シタルニ非ス從テ被告人ニハ何等ノ犯罪行爲ナキコト勿論ナルニモ拘ハラス原院ニ於テ有罪ノ判决ヲ下サレタルハ違法ナリト云フニ在リテ◎要スルニ原院ノ職權ニ屬スル事實ノ認定ヲ批難スルモノニシテ上告ノ理由ナシ
辯護人關幸太郎ノ擴張書第一點ハ原判决理由ノ第二項ニ於テ「被告作藏カ庄藏方ニ雇ハレ云々明治三十一年度ニ於テ庄藏カ買入レタル繭ノ中凡ソ二十八石七斗カ紛失シタルコトハ同人ノ豫審調書中ニ昨年ノ分ハ未タ調ヘサルモ三十一年度ニ於テ買入レタル春繭云々調査ノ結果二十八石七斗代價ニテ千貳百參拾四圓位ノ不足ヲ生シタル旨ノ記載アルニ依リテ之ヲ認ムヘシ」トアリ又末段ニ「本件ノ繭ハ明治三十一年度ニ於テ買入レタルモノニシテ豊吉ヨリ之ヲ實太郎ニ賣却シタル最終ノ時ハ同年十月ナリ而シテ繭仕入帳中明治三十一年度繭買入レ記入ハ六月ヲ以テ始マレルヲ以テ作藏ノ竊盜ヲ爲シタルハ同年六月ヨリ十月迄ノ間ナルコトヲ認ム」トアリ抑モ明治三十一年度ニ於テ庄藏カ買入レタル繭ノ中二十八石七斗ノ紛失ヲ來シタリトテ何故ニ同年六月ヨリ十月迄ノ間ニ於テ被告作藏カ之ヲ竊取シタルノ證跡トナルヤ又豊吉ヨリ實太郎カ繭ヲ買受ケタル最終ノ時ハ同年ノ十月ニシテ庄藏ノ繭仕入帳中明治三十一年度繭買入ノ記入ハ六月ヲ以テ始マレルトテ何故ニ被告作藏ノ竊盜ヲ爲シタルハ同年六月ヨリ十月迄ノ間ナルコトヲ認ムルヲ得ルヤ其事由ヲ確ムルモノナシ此點ニ於ケル庄藏ノ豫審調書ニハ前掲原判决理由ニ摘載セラレタル如ク三十一年度ニ於テ不足ヲ生シタリトナシアレトモ六月ヨリ十月迄ノ間ニ於テ其不足ヲ生シタリト明言シタル記載ナシ又繭仕入帳ハ三十一年六月ヨリ記入シアリトモ十月迄ニ止マルニアラス且ツ該帳簿記入ノ計算ニ於テ六月ヨリ十月迄ノ間ニ其繭二十八石七斗ノ不足ヲ生シタリトハ其帳簿上見ルヘキ所ナク庄藏モ亦六月ヨリ十月迄ノ間ニ不足ヲ生シタリトノ申立ヲ爲サス原判决理由ニ於テモ該帳簿ニ付テ計算ノ上其不足ヲ生スル事ヲ認メラレタルニアラス然ラハ即チ原院カ判决ノ證據トナシタル庄藏ノ申立ニ於テモ繭仕入帳ニ於テモ總テ明治三十一年六月ヨリ十月迄ノ間ニ在リテ繭二十八石七斗ノ不足ヲ生シタルコトヲ見ルヘキモノナシ既ニ其六月ヨリ十月迄ノ間ニ於テ繭二十八石七斗ノ不足アルコトヲ認ムヘキモノナキ以上ハ原判决理由ハ其根據ナシ既ニ其根據ナケレハ則チ被告作藏カ竊盜ヲ爲シタリトスル理由ハ凡テ烏有ニ歸ス從テ其賍物ヲ故買シタリトスル被告豊吉ノ犯罪理由モ亦無理由ニ歸セサルヲ得ス是故ニ原判决ハ空想ヲ以テ事實ヲ認メタルモノトナシ乃チ裁判ニ理由ヲ付セサル違法アリト云フニ在レトモ◎被告兩名ノ犯罪事實及ヒ之ヲ認メタル理由ハ原判决ニ掲擧シアリ而シ證據ヲ解釋シテ事實ヲ認定スルハ原院ノ職權ニ屬スルヲ以テ之ヲ論爭シテ上告ノ理由トナスヲ得ス
第二點ハ原判决ノ事實理由ハ明治三十一年六月ヨリ同年十月迄ノ間ニ於テ被告作藏カ竊取シタル情ヲ知リテ之ヲ豊吉カ中村實太郎中野玉十等ニ賣却シタリトナスニアリ然ルニ第一審判决理由ハ明治二十九年中ヨリ同三十一年十月迄ノ間ニ在リテ被告作藏カ竊取シタル繭ヲ被告豊吉ニ於テ其情ヲ知リナカラ之ヲ他ニ賣却シタリト爲スニアリ斯ク第一審判决ノ非ナルコトヲ認メナカラ豊吉ノ控訴ヲ棄却シ第一審判决理由ヲ是認シタルハ其判决ト理由ト相副ハサル不法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎本件ノ如ク繼續シタル一个ノ行爲ノ起點ニ付第一審ト第二審ト其認定ヲ異ニスルモ固ト犯罪構成ハ勿論時效等ニ關係ナキ事項ナレハ第二審ハ第一審ノ不當ヲ認メタルモノニアラス故ニ之ヲ相當ナリトシ被告ノ控訴ヲ棄却シタルハ違法ニ非ス
辯護人木内傳之助ノ擴張書第一ハ小林豊吉ニ對スル檢事ノ豫審請求書ニハ竊盜罪ハ起訴アルモ本件ノ盜賍牙保ノ所爲ニ付テハ公訴提起ナシ然ルニ盜賍牙保罪アリトシテ處斷シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎訴訟記録ヲ査スルニ檢事ハ被告豊吉ハ作藏ト共謀シ本件ノ繭ヲ竊取シ豊吉ニ於テ之ヲ中村實太郎ニ賣却シタルモノトシテ起訴ヲ爲シタルモノナレハ公判裁判所カ豊吉ハ竊取シタルニ非スシテ其盜賍ノ賣却ヲ牙保シタルモノナリト判决シタルハ公訴以外ノ事實ニ判决ヲ與ヘタル不法ノ裁判ニアラス
第二ハ原判决主文中被告等兩名ニ對シ公訴訴訟費用ヲ連帶シテ負擔スヘキ旨ノ判决相成リタルモ刑法第四十七條ニ依ルトキハ共犯ニアラサレハ連帶ノ責任ナキモノナリ然ルニ本件ハ一ハ竊盜ニシテ一ハ賍物牙保ナリ故ニ共犯ニアラスシテ刑法第四十七條ニ背反セシ判决ナリト云フニ在リ◎依テ審按スルニ刑法第四十七條ハ數人共犯ノ場合ニノミ適用スヘキモノナレハ竊盜ト盜賍牙保ノ如キ共犯ニアラサル被告人ニ公訴裁判費用ノ連帶ヲ言渡シタル原判决ハ失當ニシテ此點ニ於テハ上告ハ其理由アルモノトス
被告作藏ノ擴張趣旨ハ意義明瞭ナラスト雖モ第一審判决ニ刑事訴訟法第二百二十四條ヲ適用シアルニ原判决ハ其適用ノ當否ヲ説明セス又同第二百二條ヲ適用シタルハ擬律ノ錯誤ナリト云フモノヽ如シ◎果シテ然ラハ第一審判决ニ刑事訴訟法第二百二十四條ヲ適用シアルハ被告千代次郎ニ對スル詐欺取財ニ付證據不十分ナルヲ以テ無罪ヲ言渡スノ理由トシテ掲擧シタルモノニシテ被告ノ控訴事件ニ關係ナケレハ原判决ニ於テ其適用ノ當否ヲ説明スル謂ナシ又原判决ニ刑事訴訟法第二百二條ヲ適用シタルハ沒收ニ係ラサル押收物件ヲ差出人ニ還付スル爲メナレハ毫モ違法ノ點ナク上告ノ理由ナシ
私訴ニ付キ審査スルニ被告兩名ヨリ上告趣意書ヲ差出シタルモ兩名ノ上告申立書ニハ何レモ原判决ノ公訴全部ニ對シ上告スル旨ノ明記アリテ私訴判决ニ對シ定期内ニ上告申立ヲ爲シタリト認ムヘキモノナケレハ即チ私訴上告ハ成立セサルモノトス依テ其趣意書及擴張書ニ對シテハ説明ヲ與ヘス
右ノ理由ナルヲ以テ公訴原判决ハ刑事訴訟法第二百八十七條ニ依リ破毀ノ上本院ニ於テ判决シ私訴上告ハ同法第二百八十五條ニ依リ之ヲ棄却ス
右
古田作藏
小林豊吉
原判决ニ認定シタル事實ニ依リ之ヲ法律ニ照スニ被告作藏カ竊盜ノ所爲ハ刑法第三百六十六條同第三百七十六條ニ該當シ輕罪ノ三犯ニ係ルヲ以テ同法第九十八條第九十二條ニ依リ本刑ニ一等ヲ加フヘク被告豊吉ノ盜賍牙保ノ所爲ハ同法第三百九十九條第四百條ニ該當ス依テ被告作藏ヲ重禁錮三年ニ處シ一年ノ監視ニ付ス被告豊吉ヲ重禁錮一年ニ處シ罰金拾圓ヲ附加シ六月ノ監視ニ付ス現在ノ賍品ハ刑法第四十八條ニ依リ之ヲ被害者小野庄藏ニ還付シ其他ノ押收物件ハ刑事訴訟法第二百二條ニ依リ之ヲ各差出人ニ還付ス
公訴裁判費用ハ刑事訴訟法第二百一條第一項ニ依リ各其二分一ヲ負擔セシム
私訴上告ニ關スル裁判費用ハ古田作藏小林豊吉ノ負擔トス
明治三十三年四月二十三日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事古賀廉造立會宣告ス
明治三十三年れ第二七七号
明治三十三年四月二十三日宣告
◎判決要旨
裁判費用の連帯負担を命ずる法則（刑法第四十七条）は数人共犯の場合にのみ適用すべきものとす。
従て窃盗罪の被告人と盗贓牙保罪の被告人に公訴裁判費用の連帯負担を言渡したる判決は不法なり。
（参照）数人共犯に係る裁判費用贓物の還給損害の賠償は共犯人をして之を連帯せしむ（刑法第四＄十七条）
公訴私訴上告人 古田作蔵 外一名
私訴被上告人 小野庄蔵
右作蔵豊吉に対する窃盗被告事件並に之に附帯する私訴に付、明治三十三年二月十九日東京控訴院に於て公訴に付ては一審判決中被告作蔵に関する部分を取消す被告作蔵を重禁錮三年に処し一年の監視に付す被告豊吉の控訴は之を棄却す控訴裁判費用は被告両名連帯して之を負担すべし。
現在の賍品は之を被害者小野庄蔵に還付し其他の押収物件は各差出人に還付す私訴に付ては被控訴人小林豊吉に関する部分は之を廃棄し被控訴人小林豊吉は吉田作蔵と連帯して金壱千弐百参十四円を控訴人小野庄蔵に賠償すべし。
第二審の訴訟費用は豊吉作蔵之を負担し第一審の訴訟費用中作蔵の負担に属せざる部分は豊吉之を負担すべき旨を言渡したる判決を不当とし被告両名は上告を為したり。
依て刑事訴訟法第二百八十三条の定式を履行し判決すること左の如し
被告両名上告趣意書は本件被害者が窃取せられたりとする繭は生繭を乾燥したる当然の結果其減少を見るに至れるものにして窃取せられたる為めに減少したるに非ず。
従て被告人には何等の犯罪行為なきこと勿論なるにも拘はらず原院に於て有罪の判決を下されたるは違法なりと云ふに在りて◎要するに原院の職権に属する事実の認定を批難するものにして上告の理由なし。
弁護人関幸太郎の拡張書第一点は原判決理由の第二項に於て「被告作蔵が庄蔵方に雇はれ云云明治三十一年度に於て庄蔵が買入れたる繭の中凡そ二十八石七斗が紛失したることは同人の予審調書中に昨年の分は未だ調へざるも三十一年度に於て買入れたる春繭云云調査の結果二十八石七斗代価にて千弐百参拾四円位の不足を生じたる旨の記載あるに依りて之を認むべし」とあり又末段に「本件の繭は明治三十一年度に於て買入れたるものにして豊吉より之を実太郎に売却したる最終の時は同年十月なり。
而して繭仕入帳中明治三十一年度繭買入れ記入は六月を以て始まれるを以て作蔵の窃盗を為したるは同年六月より十月迄の間なることを認む」とあり。
抑も明治三十一年度に於て庄蔵が買入れたる繭の中二十八石七斗の紛失を来したりとて何故に同年六月より十月迄の間に於て被告作蔵が之を窃取したるの証跡となるや又豊吉より実太郎が繭を買受けたる最終の時は同年の十月にして庄蔵の繭仕入帳中明治三十一年度繭買入の記入は六月を以て始まれるとて何故に被告作蔵の窃盗を為したるは同年六月より十月迄の間なることを認むるを得るや其事由を確むるものなし此点に於ける庄蔵の予審調書には前掲原判決理由に摘載せられたる如く三十一年度に於て不足を生じたりとなしあれども六月より十月迄の間に於て其不足を生じたりと明言したる記載なし。
又繭仕入帳は三十一年六月より記入しありとも十月迄に止まるにあらず。
且つ該帳簿記入の計算に於て六月より十月迄の間に其繭二十八石七斗の不足を生じたりとは其帳簿上見るべき所なく庄蔵も亦六月より十月迄の間に不足を生じたりとの申立を為さず原判決理由に於ても該帳簿に付て計算の上其不足を生ずる事を認められたるにあらず。
然らば、即ち原院が判決の証拠となしたる庄蔵の申立に於ても繭仕入帳に於ても総で明治三十一年六月より十月迄の間に在りて繭二十八石七斗の不足を生じたることを見るべきものなし既に其六月より十月迄の間に於て繭二十八石七斗の不足あることを認むべきものなき以上は原判決理由は其根拠なし。
既に其根拠なければ則ち被告作蔵が窃盗を為したりとする理由は凡で烏有に帰す。
従て其賍物を故買したりとする被告豊吉の犯罪理由も亦無理由に帰せざるを得ず。
是故に原判決は空想を以て事実を認めたるものとなし乃ち裁判に理由を付せざる違法ありと云ふに在れども◎被告両名の犯罪事実及び之を認めたる理由は原判決に掲挙しあり而し証拠を解釈して事実を認定するは原院の職権に属するを以て之を論争して上告の理由となすを得ず。
第二点は原判決の事実理由は明治三十一年六月より同年十月迄の間に於て被告作蔵が窃取したる情を知りて之を豊吉が中村実太郎中野玉十等に売却したりとなすにあり。
然るに第一審判決理由は明治二十九年中より同三十一年十月迄の間に在りて被告作蔵が窃取したる繭を被告豊吉に於て其情を知りながら之を他に売却したりと為すにあり斯く第一審判決の非なることを認めながら豊吉の控訴を棄却し第一審判決理由を是認したるは其判決と理由と相副はざる不法の裁判なりと云ふに在れども◎本件の如く継続したる一个の行為の起点に付、第一審と第二審と其認定を異にするも固と犯罪構成は勿論時効等に関係なき事項なれば第二審は第一審の不当を認めたるものにあらず。
故に之を相当なりとし被告の控訴を棄却したるは違法に非ず
弁護人木内伝之助の拡張書第一は小林豊吉に対する検事の予審請求書には窃盗罪は起訴あるも本件の盗賍牙保の所為に付ては公訴提起なし。
然るに盗賍牙保罪ありとして処断したるは不法なりと云ふに在れども◎訴訟記録を査するに検事は被告豊吉は作蔵と共謀し本件の繭を窃取し豊吉に於て之を中村実太郎に売却したるものとして起訴を為したるものなれば公判裁判所が豊吉は窃取したるに非ずして其盗賍の売却を牙保したるものなりと判決したるは公訴以外の事実に判決を与へたる不法の裁判にあらず。
第二は原判決主文中被告等両名に対し公訴訴訟費用を連帯して負担すべき旨の判決相成りたるも刑法第四十七条に依るときは共犯にあらざれば連帯の責任なきものなり。
然るに本件は一は窃盗にして一は賍物牙保なり。
故に共犯にあらずして刑法第四十七条に背反せし判決なりと云ふに在り◎依て審按ずるに刑法第四十七条は数人共犯の場合にのみ適用すべきものなれば窃盗と盗賍牙保の如き共犯にあらざる被告人に公訴裁判費用の連帯を言渡したる原判決は失当にして此点に於ては上告は其理由あるものとす。
被告作蔵の拡張趣旨は意義明瞭ならずと雖も第一審判決に刑事訴訟法第二百二十四条を適用しあるに原判決は其適用の当否を説明せず又同第二百二条を適用したるは擬律の錯誤なりと云ふものの如し◎果して然らば第一審判決に刑事訴訟法第二百二十四条を適用しあるは被告千代次郎に対する詐欺取財に付、証拠不十分なるを以て無罪を言渡すの理由として掲挙したるものにして被告の控訴事件に関係なければ原判決に於て其適用の当否を説明する謂なし。
又原判決に刑事訴訟法第二百二条を適用したるは没収に係らざる押収物件を差出人に還付する為めなれば毫も違法の点なく上告の理由なし。
私訴に付き審査するに被告両名より上告趣意書を差出したるも両名の上告申立書には何れも原判決の公訴全部に対し上告する旨の明記ありて私訴判決に対し定期内に上告申立を為したりと認むべきものなければ、即ち私訴上告は成立せざるものとす。
依て其趣意書及拡張書に対しては説明を与へず
右の理由なるを以て公訴原判決は刑事訴訟法第二百八十七条に依り破毀の上本院に於て判決し私訴上告は同法第二百八十五条に依り之を棄却す
右
古田作蔵
小林豊吉
原判決に認定したる事実に依り之を法律に照すに被告作蔵が窃盗の所為は刑法第三百六十六条同第三百七十六条に該当し軽罪の三犯に係るを以て同法第九十八条第九十二条に依り本刑に一等を加ふべく被告豊吉の盗賍牙保の所為は同法第三百九十九条第四百条に該当す。
依て被告作蔵を重禁錮三年に処し一年の監視に付す被告豊吉を重禁錮一年に処し罰金拾円を附加し六月の監視に付す現在の賍品は刑法第四十八条に依り之を被害者小野庄蔵に還付し其他の押収物件は刑事訴訟法第二百二条に依り之を各差出人に還付す
公訴裁判費用は刑事訴訟法第二百一条第一項に依り各其二分一を負担せしむ
私訴上告に関する裁判費用は古田作蔵小林豊吉の負担とす。
明治三十三年四月二十三日大審院第二刑事部公廷に於て検事古賀廉造立会宣告す
