◎判决要旨
刑事訴訟法第二百五十條ニ所謂判决ニハ主文ノ外其理由ヲモ包含ス
（參照）控訴ハ區裁判所又ハ地方裁判所ノ第一審ニ於テナシタル本案ノ判决及ヒ第百八十七條ニ規定シタル本案前ノ判决ニ對シ之ヲ爲スコトヲ得（刑事訴訟法第＄二百五十條）
右省三ニ對スル公吏侮辱詐欺取財被告事件ニ付明治三十一年五月五日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ヲ不當トシ被告ヨリ上告ヲ爲シタルニ因リ刑事訴訟法第二百八十三條ヲ定式ヲ履行シ審判スルコト左ノ如シ
上告趣意書ハ原院ニ於テ證據書類ヲ朗讀セスシテ斷罪ノ證據ト爲シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎原院公判始末書ヲ檢スルニ右ハ被告ノ承諾上省畧シタル事實明カナルヲ以テ上告ノ理由トナラス』同辯明書第一第二ハ本件ノ賍物中被告ノ手許ニ現在セルモノアルニモ拘ラス豫審判事カ之ヲ押収セサリシハ違法ナリ又豫審ニ於テ民事ノ訴状及日向クラカ提出シタル公正證書ヲ被告ニ示サヽリシハ違法ナルヲ以テ此違法ノ豫審ニ基キ爲シタル原判决モ不法ナリト云フニ在レトモ◎是等豫審處分ノ當否ヲ論爭シテ本案判决ニ對スル上告理由ト爲スヲ得ス』第三ハ齋藤文益齋藤ミヨシハ民事原告人日向クラト同居セル者ナルヲ以テ同人ニ對スル證人調書ハ無効ノモノナルニ原院カ採テ證據ト爲シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎右文益ミヨシカ豫審ノ取調ヲ受ケタルハ日向クラカ私訴提起ノ前ニ在レハ同居ノ如何ニ拘ハラス證人タルノ資格ニ欠クル所ナシ從テ原判决ハ不法ニアラス』第五（第四ハ辯明書ニ缺）ハ原院公判辯論ニ立會タル檢事ハ判决言渡ニ立會タル檢事ト同一ノ檢事ニアラサリシニ同一ノ檢事ノ如ク判示セラレタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎原判文ニ依レハ辯論ニ立會タル檢事ハ古賀廉造ニシテ判决言渡ニ立會タル檢事ハ小宮三保松ナルコト明記シアレハ本論旨ハ原判决ニ添ハサルモノニシテ固ヨリ上告ノ理由トナラス』第六ハ原院カ公正證書ヲ沒収セサリシハ相當ナルモ其之ヲ沒収セサル理由ヲ明示セサリシハ不法ナリト云フニ在レトモ◎是等ノ處分ニ付テハ特ニ其理由ヲ判示スルノ必要ナシ』第七ハ原院ハ書類ノ朗讀ヲ爲サス又證據物件ヲ示シテ辯解セシメスシテ證據ト爲シタルハ違法ナリト云フニ在レトモ◎原院カ採用シタル證據物件ハ之ヲ被告ニ示シ又記録ノ朗讀ハ被告ノ承諾上之ヲ省畧シ尚ホ何レモ被告ニ辯解セシメタルコト公判始末書ニ明カナルヲ以テ本論旨ハ不相立』第八ハ豫審判事ハ中村謙治ニ對シ詐言ヲ用テ訊問ヲ爲シタルモノナレハ其調書ハ無効ノモノナルニ原院カ採テ證據ト爲シタルハ違法ナリト云フニ在レトモ◎中村謙治ナル者ノ豫審調書ハ原院カ採用シタルモノニアラス本論旨モ原判决ニ添ハサルモノニシテ上告ノ理由トナラス』第九ハ被告ノ前科ハ二犯ニシテ三犯ニアラサルニ原院カ之ヲ三犯ト爲シ從テ重キ刑期ヲ言渡シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎原院カ採用シタル既决犯罪表ニ依レハ被告ノ前科ハ三犯ナルコト明カナルヲ以テ原判决ハ不法ニアラス』第十ハ原院ニ於テ公訴裁判費用ヲ被告ニ負擔セシムヘキ言渡ヲ爲サヽリシハ不法ナリト云フニ在レトモ◎被告ノ不利益ニ歸スヘキ論旨ナルヲ以テ上告ノ理由トナラス』第十一ハ原院ニ於テ被告ニ最終ノ陳述ヲ爲サシメサリシハ不法ナリト云フニ在レトモ◎辯論ハ最終ニ被告ニ陳述セシメタルコトハ公判始末書ニ依テ明瞭ナルヲ以テ論旨ノ如キ違法ナシトス』同第二辯明書第一ハ官吏侮辱罪ニ付テハ侮辱ノ當時之ヲ見聞シタル第三者アラサルヘカラサルモノナルニ本件ノ事實ハ他ニ之ヲ見聞シタル者ナキヲ以テ被告ノ所爲ハ罪トナラサルモノナリト云フニ在レトモ◎他ニ之ヲ見聞シタル者有リヤ否ハ刑法第百四十一條ノ侮辱罪構成ニ付必要條件ニアラサルコト諭ヲ俟タサルヲ以テ本論旨モ不相立』第二ハ三笠成孝ノ豫審廷ニ於ケル陳述ハ僞證ナルコト明カナルニ原院カ採テ證據ト爲シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎三笠成孝ナル者ノ豫審調書ハ原院ニ於テ證據ニ採用シタルコトナケレハ本論旨モ原判决ニ添ハサルモノニシテ上告ノ理由トナラス』第三ハ侮辱罪ハ虚無ノ事實ヲ以テ侮辱シタルニアラサレハ成立セサルモノナレハ被告カ小關孝悌ヲ侮辱シタルハ眞實ノ事實ヲ以テ爲シタルモノナルヲ以テ無罪ナリト云フニ在レトモ◎事實ノ有無ハ侮辱罪構成ニ必要ナラサルコト勿論ナルヲ以テ本論旨モ不相立』第四ハ縷々陳辯スル所アルモ結局被告カ欺罔騙取ノ顛末ヲ證スヘキモノ毫シモアルコトナキニ原院カ漠然詐欺取財ノ罪アルモノト判决シタルハ違法ナリト云フニ在レトモ◎原院カ認メタル事實ニ對スル證據ハ判文ニ明示スル所ニシテ漠然有罪ノ判决ヲ爲シタルモノニアラス畢竟本論旨ハ事實認定ノ批難ニ外ナラサルヲ以テ上告ノ理由トナラス』同辯護士高木益太郎上告事件辯明書ハ證人日向クラノ豫審調書ヲ見ルニ豫審判事ハクラト被告トノ間ニ民事原告人及同居人ノ關係アリヤ否ヤヲ問査シタル事跡ナシ故ニ其訊問ハ刑事訴訟法第百二十一條ノ法式ヲ完全ニ踐行シタルモノニアラス從テ陳述ハ證言ノ効ナキモノナルニ原判决カ之ヲ證人調書トシテ罪證ニ供シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎右クラト被告カ同居セルモノニアラサルコト兩名ノ豫審調書ニ明カニシテ又當時本件ニ付民事原告人ナキコトモ記録上明瞭ナル事實ナレハ特ニ之ヲ問ハサリシモ敢テ違法トセス』辯護士花井卓藏上告趣意擴張書第一點ハ裁判官ハ當事者ノ主張竝ニ立證ヲ基本トセスシテ事件ヲ裁斷スルノ職權ヲ有セス本件ノ判决書ヲ見ルニ原告官竝ニ被告人ハ如何ナル事實法律ノ理由ヲ主張シタルモノナルヤ又如何ナル立證方法ヲ爲シタルモノナルヤ毫モ之ヲ明示スル所ナシ從テ兩造ノ爭點ハ那邊ニ存在スルヤ又之ヲ知ルニ由ナシ如斯ニシテ判决ノ眞相果シテ何クニカアル而シテ原判决ノ裁判官夫レ自身カ事件ノ状態ヲ認定的ニ記述シタルニ止マリ當事者ノ爭點立證ヲ表明セサルモノタルコトハ該判文自體ノ證明スル所ナリ果シテ然ラハ適正ナル判决トシテハ法律上何等ノ効力ヲモ有スヘキモノニ非ス乃チ原判决ハ爰點ニ於テ適法ノ裁判ヲ與ヘサル缺點アリト云フニ在レトモ◎刑事ノ判决ニ付テハ刑事訴訟法第二百三條ノ規定アリテ而シテ同條ノ趣意ハ判事ニ於テ其自ヲ認メタル事實適用スル法律ノ理由及ヒ認定シタル事實ニ對スル證憑ヲ明示スヘシト云フニ在テ檢事及被告人ノ主張ノ理由并ニ其立證等ヲ與ケ之ニ對シ一々其當否ヲ説明スヘキコトヲ要シタルニアラストス故ニ原判决ハ不法ニアラス』第二點ハ刑事訴訟法第二百五十條ニ控訴ハ云々第一審ニ於テ爲シタル本案ノ判决云々ニ對シ之ヲ爲スコトヲ得トアリ而シテ又同法第二百六十五條ニ被告人云々控訴ヲ爲シタルトキハ原判决ヲ變更シテ被告人ノ不利益ト爲スコトヲ許サストアリ右兩條ニ所謂判决トハ其基本タルヘキ主文ノミヲ意味スヘキモノニシテ理由ヲ包含セサルコトハ法理先例ノ徴スヘキモノアリ是故ニ被告人ノ控訴ハ第一審ノ判决主文ニ掲ケル刑罰事件ヲ不法トシテ控訴シタルモノト解釋スヘキヲ當然ナリトス從テ其刑罰自體ニシテ輕キニ失シ更ニ重刑ニ處ラセレタル以上ハ假令其他ノ理由ニ於テ原審ノ判斷ニ不當ノ點アリトスルモ被告人ノ控訴ハ結局理由ナキニ歸着セサルヘカラス何トナレハ第一審判决ヲ不法トシテ控訴シタルニ際シ第二審ニ於テ原判决以上ノ重刑ニ處セラレ被告人ノ控訴理由アルヘキ筋合ナケレハナリ果シテ然レハ本件ノ如キ塲合ニアリテ被告人ノ控訴ハ之ヲ棄却シ檢事ノ附帶控訴ニ依リ主文ノ刑ヲ言渡スヘキ筋合ナルニ原院ノ處措茲ニ出テサルハ法則ヲ適用セサル不法アリト云フニ在レトモ◎右第二百五十條ニ判决云々トアルハ其理由ヲモ包含シタルモノナルヲ以テ其理由ニ對スル攻撃ニシテ相當ノモノナル上ハ控訴ハ理由アリタルヲ以テ原判决ハ不法ニアラス』第三點ハ前掲辯護士高木益太郎ノ上告事件辯明書ト同主旨ナルヲ以テ重テ説明スルノ必要ナシ
以上ノ理由ニ依リ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十一年六月十三日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事安居修藏立會宣告ス
◎判決要旨
刑事訴訟法第二百五十条に所謂判決には主文の外其理由をも包含す
（参照）控訴は区裁判所又は地方裁判所の第一審に於てなしたる本案の判決及び第百八十七条に規定したる本案前の判決に対し之を為すことを得。
（刑事訴訟法第＄二百五十条）
右省三に対する公吏侮辱詐欺取財被告事件に付、明治三十一年五月五日東京控訴院に於て言渡したる判決を不当とし被告より上告を為したるに因り刑事訴訟法第二百八十三条を定式を履行し審判すること左の如し
上告趣意書は原院に於て証拠書類を朗読せずして断罪の証拠と為したるは不法なりと云ふに在れども◎原院公判始末書を検するに右は被告の承諾上省略したる事実明かなるを以て上告の理由とならず』同弁明書第一第二は本件の賍物中被告の手許に現在せるものあるにも拘らず予審判事が之を押収せざりしは違法なり。
又予審に於て民事の訴状及日向くらか提出したる公正証書を被告に示さざりしは違法なるを以て此違法の予審に基き為したる原判決も不法なりと云ふに在れども◎是等予審処分の当否を論争して本案判決に対する上告理由と為すを得ず。』第三は斎藤文益斎藤みよしは民事原告人日向くらと同居せる者なるを以て同人に対する証人調書は無効のものなるに原院が採で証拠と為したるは不法なりと云ふに在れども◎右文益みよしか予審の取調を受けたるは日向くらか私訴提起の前に在れば同居の如何に拘はらず証人たるの資格に欠くる所なし。
従て原判決は不法にあらず。』第五（第四は弁明書に欠）は原院公判弁論に立会たる検事は判決言渡に立会たる検事と同一の検事にあらざりしに同一の検事の如く判示せられたるは不法なりと云ふに在れども◎原判文に依れば弁論に立会たる検事は古賀廉造にして判決言渡に立会たる検事は小宮三保松なること明記しあれば本論旨は原判決に添はざるものにして固より上告の理由とならず』第六は原院が公正証書を没収せざりしは相当なるも其之を没収せざる理由を明示せざりしは不法なりと云ふに在れども◎是等の処分に付ては特に其理由を判示するの必要なし。』第七は原院は書類の朗読を為さず又証拠物件を示して弁解せしめずして証拠と為したるは違法なりと云ふに在れども◎原院が採用したる証拠物件は之を被告に示し又記録の朗読は被告の承諾上之を省略し尚ほ何れも被告に弁解せしめたること公判始末書に明かなるを以て本論旨は不相立』第八は予審判事は中村謙治に対し詐言を用で訊問を為したるものなれば其調書は無効のものなるに原院が採で証拠と為したるは違法なりと云ふに在れども◎中村謙治なる者の予審調書は原院が採用したるものにあらず。
本論旨も原判決に添はざるものにして上告の理由とならず』第九は被告の前科は二犯にして三犯にあらざるに原院が之を三犯と為し。
従て重き刑期を言渡したるは不法なりと云ふに在れども◎原院が採用したる既決犯罪表に依れば被告の前科は三犯なること明かなるを以て原判決は不法にあらず。』第十は原院に於て公訴裁判費用を被告に負担せしむべき言渡を為さざりしは不法なりと云ふに在れども◎被告の不利益に帰すべき論旨なるを以て上告の理由とならず』第十一は原院に於て被告に最終の陳述を為さしめざりしは不法なりと云ふに在れども◎弁論は最終に被告に陳述せしめたることは公判始末書に依て明瞭なるを以て論旨の如き違法なしとす』同第二弁明書第一は官吏侮辱罪に付ては侮辱の当時之を見聞したる第三者あらざるべからざるものなるに本件の事実は他に之を見聞したる者なきを以て被告の所為は罪とならざるものなりと云ふに在れども◎他に之を見聞したる者有りや否は刑法第百四十一条の侮辱罪構成に付、必要条件にあらざること諭を俟たざるを以て本論旨も不相立』第二は三笠成孝の予審廷に於ける陳述は偽証なること明かなるに原院が採で証拠と為したるは不法なりと云ふに在れども◎三笠成孝なる者の予審調書は原院に於て証拠に採用したることなければ本論旨も原判決に添はざるものにして上告の理由とならず』第三は侮辱罪は虚無の事実を以て侮辱したるにあらざれば成立せざるものなれば被告が小関孝悌を侮辱したるは真実の事実を以て為したるものなるを以て無罪なりと云ふに在れども◎事実の有無は侮辱罪構成に必要ならざること勿論なるを以て本論旨も不相立』第四は縷縷陳弁する所あるも結局被告が欺罔騙取の顛末を証すべきもの毫しもあることなきに原院が漠然詐欺取財の罪あるものと判決したるは違法なりと云ふに在れども◎原院が認めたる事実に対する証拠は判文に明示する所にして漠然有罪の判決を為したるものにあらず。
畢竟本論旨は事実認定の批難に外ならざるを以て上告の理由とならず』同弁護士高木益太郎上告事件弁明書は証人日向くらの予審調書を見るに予審判事はくらと被告との間に民事原告人及同居人の関係ありや否やを問査したる事跡なし。
故に其訊問は刑事訴訟法第百二十一条の法式を完全に践行したるものにあらず。
従て陳述は証言の効なきものなるに原判決が之を証人調書として罪証に供したるは不法なりと云ふに在れども◎右くらと被告が同居せるものにあらざること両名の予審調書に明かにして又当時本件に付、民事原告人なきことも記録上明瞭なる事実なれば特に之を問はざりしも敢て違法とせず』弁護士花井卓蔵上告趣意拡張書第一点は裁判官は当事者の主張並に立証を基本とせずして事件を裁断するの職権を有せず。
本件の判決書を見るに原告官並に被告人は如何なる事実法律の理由を主張したるものなるや又如何なる立証方法を為したるものなるや毫も之を明示する所なし。
従て両造の争点は那辺に存在するや又之を知るに由なし。
如斯にして判決の真相果して何くにがある。
而して原判決の裁判官夫れ自身が事件の状態を認定的に記述したるに止まり当事者の争点立証を表明せざるものたることは該判文自体の証明する所なり。
果して然らば適正なる判決としては法律上何等の効力をも有すべきものに非ず乃ち原判決は爰点に於て適法の裁判を与へざる欠点ありと云ふに在れども◎刑事の判決に付ては刑事訴訟法第二百三条の規定ありて、而して同条の趣意は判事に於て其自を認めたる事実適用する法律の理由及び認定したる事実に対する証憑を明示すべしと云ふに在で検事及被告人の主張の理由並に其立証等を与け之に対し一一其当否を説明すべきことを要したるにあらずとす。
故に原判決は不法にあらず。』第二点は刑事訴訟法第二百五十条に控訴は云云第一審に於て為したる本案の判決云云に対し之を為すことを得とあり。
而して又同法第二百六十五条に被告人云云控訴を為したるときは原判決を変更して被告人の不利益と為すことを許さずとあり右両条に所謂判決とは其基本たるべき主文のみを意味すべきものにして理由を包含せざることは法理先例の徴すべきものあり是故に被告人の控訴は第一審の判決主文に掲げる刑罰事件を不法として控訴したるものと解釈すべきを当然なりとす。
従て其刑罰自体にして軽きに失し更に重刑に処らせれたる以上は仮令其他の理由に於て原審の判断に不当の点ありとするも被告人の控訴は結局理由なきに帰着せざるべからず。
何となれば第一審判決を不法として控訴したるに際し第二審に於て原判決以上の重刑に処せられ被告人の控訴理由あるべき筋合なければなり。
果して。
然れば本件の如き場合にありて被告人の控訴は之を棄却し検事の附帯控訴に依り主文の刑を言渡すべき筋合なるに原院の処措茲に出でさるは法則を適用せざる不法ありと云ふに在れども◎右第二百五十条に判決云云とあるは其理由をも包含したるものなるを以て其理由に対する攻撃にして相当のものなる上は控訴は理由ありたるを以て原判決は不法にあらず。』第三点は前掲弁護士高木益太郎の上告事件弁明書と同主旨なるを以て重て説明するの必要なし。
以上の理由に依り刑事訴訟法第二百八十五条に従ひ本件上告は之を棄却す
明治三十一年六月十三日大審院第二刑事部公廷に於て検事安居修蔵立会宣告す
