官吏收賄ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）4輯3巻12頁
明治三十一年第一六號
明治三十一年三月三日宣告
◎判决要旨
刑法第二百八十四條ニ所謂官吏ハ純然タル官吏ヲ指スモノニシテ官吏ト同一ノ待遇ヲ受クヘキ者ヲ包含セス
（參照）官吏人ノ囑託ヲ受ケ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ聽許シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ四圓以上四十圓以下ノ罰金ヲ附加ス（刑法第二百八＄十四條第一項）高等小學校々長ハ官吏ノ待遇ヲ受ク然レトモ官吏ニ非ス
（參照）市町村立小學校長及教員ハ左ノ區別ニ從ヒ判任官ヲ以テ待遇ス（明治二十四年勅令第七十三號第二條第一項）
尋常師範學校教諭特ニ命セラレタル事務ニ關シ他人ノ囑託ヲ受ケ金品ヲ收受シタル所爲ハ官吏收賄罪ヲ搆成ス
第一審 新潟地方裁判所
第二審 東京控訴院
右官吏收賄被告事件ニ付明治三十年十二月二日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ同院檢事長野村維章ヨリ上告ヲ爲シタルニ依リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ辯護士松尾清次郎湊𥑻吾ノ辯論檢事安居修藏ノ意見ヲ聽キ判决スル左ノ如シ
上告趣意第一點ハ原判决ハ被告修二葆カ高等小學校長ナル身分ハ官吏ニアラス隨テ小學校教科用圖書審査委員タル資格ニ關シ收賄ノ行爲アルモ其所爲罪トナラス加フルニ葆カ收賄シタルハ審査委員任命前ニ在リ又被告寛次郎カ師範學校教諭兼舍監タル身分ハ官吏ナルモ贈賄ノ申込ヲ聽許シタルハ審査委員任命前ナルヲ以テ罪トナラスト云フニ在リ然ルニ當院ノ判决ハ審査委員ハ官吏又ハ公吏ニアラサルヲ以テ其所爲罪トナラストシタル原判决ハ相當ナリトシテ控訴ヲ棄却セリ原判决ト當院ノ判决トハ官吏タル資格ノ點ニ於テ全ク其理由ヲ異ニシナカラ原判决ヲ是認シテ控訴ヲ棄却シタリ當院判决ノ理由ニ依レハ原判决カ無罪トセシ理由ハ不當ナルヲ以テ原判决ヲ取消シ更ニ無罪ノ判决ヲ爲スヘキニ其不當ナル理由ヲ認メナカラ單ニ棄却ノ判决ヲ爲シタルハ法則ヲ不當ニ適用セル法律ニ違背シタル判决ナリト云フニ在レトモ◎第一審判决及ヒ原判决共被告等ハ官吏ニアラスト云フニ在リテ其理由彼此同一ナルヲ以テ斯ノ如キ塲合ニ於テハ第一審判决ヲ取消スヲ要セサルモノトス』上告趣意第二點ハ高等小學校長ハ明治二十四年勅令第二百十八號教員待遇規程第二條ニ判任文官ト同一ノ待遇ヲ受クト規程セラレ同年文部省令第六號ヲ以テ任免席次其他ニ關シ總テ判任文官ト同一ノ待遇ヲ受クヘキコトヲ定メラレ被告修二葆ハ任官ノ式ニ依リテ高等小學校長ニ任命セラレ公務ニ從事スル義務ヲ有シ被告寛次郎ハ師範學校教諭兼舍監ニシテ純然タル官吏ナリ而シテ被告三名カ任命セラレタル小學教科用圖書審査委員ハ明治二十三年勅令第二百十五號明治二十四年文部省令第十四號及ヒ明治二十六年勅令第百四號ニ依テ組織セラレタルモノナリ然レハ其委員ノ事務ニ關シ被告三名カ囑託ヲ受ケテ賄賂ヲ收受シタルハ刑法第二百八十四條ノ犯罪ヲ構成スルコト論ヲ俟タス彼ノ巡査看守モ亦教員ト同シク判任官ノ待遇ヲ受クルニ過キサルモ其職務ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ聽許シタルモノハ賄賂收受罪ヲ以テ罰シ其職務ニ對シ侮辱シタル者ハ官吏侮辱罪ヲ以テ罰スル判例アリ然ルニ其判决ニ審査委員ハ官吏又ハ公吏ニアラサルヲ以テ收賄罪ヲ構成セスト爲シ無罪ノ判决ヲ爲シタルハ違法ナリト云フニ在リ◎依テ審案スルニ刑法第二百八十四條ニ官吏人ノ囑託ヲ受ケ云々トアルハ純然タル官吏ヲ指シタルモノニシテ高等小學校長等ノ如キ官吏ト同一ノ待遇ヲ受クル者ヲ包含セス故ニ原院カ高等小學校長タル被告修二及ヒ葆ニ對シ收賄罪ヲ構成セスト判决シタルハ違法ニアラス然レトモ官吏ハ其常務ニ關スルト特ニ命セラレタル事務ニ關スルトニ論ナク人ノ囑託ヲ受ケテ賄賂ヲ收受シ又ハ聽許シタルハ即刑法第二百八十四條ノ犯罪ヲ構成スル者トス而シテ原判决ノ認定ニ據レハ被告寛次郎ハ新潟縣尋常師範學校教諭兼舍監在勤中小學教科用圖書審査會委員ヲ命セラレ其事務ニ關シ書肆國光社員五十嵐甚藏ノ囑託ヲ受ケテ金圓池品ヲ收受シ因テ不正ノ處分ヲ爲シタルモノナレハ即收賄罪ヲ構成スヘキ事實ナルニ之ニ對シ無罪ノ判决ヲ爲シタルハ違法ニシテ破毀スヘキ原因アリトス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十六條ニ原判决中被告寛次郎ニ對スル部分ヲ破毀シ本件ヲ宮城控訴院ニ移ス
被告修二葆ノ判决ニ對スル上告ハ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ之ヲ棄却ス
明治三十一年三月三日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事安居修藏立會宣告ス
