謀殺未遂ノ件

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大審院刑事判決録（刑録）3輯1巻39頁

上告ノ要旨本件ハ長崎地方裁判所ニ於テ明治二十九年六月十日第一審ノ判决言渡シアリタルニ對シ上告人ハ同月十五日控訴申立ヲナシ同時ニ控訴豫納金免除請求書ヲ差出シ尋テ同月二十二日ニ至リ上告人ヨリ控訴豫納金トシテ二十圓ヲ納付スルヤ長崎控訴院ハ看テ豫納金免除請求ノ取消ト爲シ同月三十日判决ヲ言渡サレ終ニ上告審ニ移リ廣島控訴院ニ移送セラレタルモノナリ元來期限後ノ豫納金納付ハ無効ノ手續ニシテ何等ノ効果ヲ生セサルモノナレハ前ニ申立タル豫納金免除請求ノ取消ナキ限リハ重罪控訴豫納金規則ニヨリ十四日ノ期間ト距離ノ爲メニ要スル期間即チ上告人住所ヨリ長崎マテ三十餘里ナルヲ以テ少クトモ七月七日迄ノ經過ヲ竢チタル後其當否ヲ决定セサルヘカラサルモノナルニ事茲ニ出テサリシ爲メ上告人ハ趣意書并ニ無資力證明書提出ノ利益ヲ失シ隨テ豫納金免除ノ當否ヲ决スルハ决定ノ手續ニ依ルヘキモノナルモ判决ノ爲メ公判ニ於テ之ヲ審理セラルヽコトヽナレリ故ニ上告人カ無資力證明書ト趣意書トヲ提出スヘキ期限ハ正當ノ期間ヨリ七日前ニ中斷セラレタレハ廣島控訴院公判廷ニ右兩書ヲ提出スルニ於テハ當然免除ノ當否ニ付决定ヲ受クヘキ理由アリトス然ルニ原院カ控訴棄却ノ言渡ヲ爲シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎重罪ノ刑ノ言渡ヲ受ケタル者控訴ヲ爲スニハ重罪控訴豫納金規則ニ依リ控訴規期間内ニ豫納金ヲ納付セサルヘカラス而シテ同規則中豫納金免除ノ請求ヲ得ルノ規定ハ貧困無資力者ノ爲メニ特別ノ例ヲ設ケタルニ過キサレハ一旦豫納金免除ノ請求ヲ爲シタルモ更ニ豫納金ヲ納付シタルトキハ其免除ノ請求ハ當然之ヲ取消シタルモノト認ムヘキハ論ヲ俟タス故ニ原控訴院ニ於テ被告カ豫納金ヲ納メタルニ依リ免除ノ請求ヲ取消シタルモノト爲シ而シテ其豫納金ヲ納メタルハ控訴ノ期間後ニ係ルヲ以テ控訴成立セサルモノト判决シタルハ相當ニシテ被告カ豫納金ヲ納付シタルモ仍ホ免除ノ請求ヲ取消シタルニ非ストノ上告論旨ハ到底其理由ナキモノトス

右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス

明治三十年一月二十六日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩野新平立會宣告ス