◎判决要旨
(判旨第四點) 法律上日曜日ノ職務執行ヲ禁シタル例規アルコトナシ
(同點) 豫審判事ハ其職務ノ性質上日曜日ト否トヲ區別スルヲ得サルモノナレハ假令其决定書ノ作成ニシテ日曜日ニ該當スルモ之ヲ以テ不法トナスヲ得ス
(判旨第八點) 詐欺取財事件ニ付共犯ノ一人財物ヲ占有シタル以上ハ他ノ一人之ヲ占有セサルモ共ニ騙取ノ責任ヲ逭ルヽヲ得ス
公訴上告人 小林吉次郎
辯護人 齋藤孝治
私訴上告人 森下豐八
私訴被上告人 本多ツル
右吉次郎カ詐欺取財被告事件ノ公訴私訴ニ付明治二十九年四月十三日東京控訴院ニ於テ本件控訴ハ之ヲ棄却スト言渡シタル判决ニ對シ被告吉次郎ハ公訴ニ付豐八ハ私訴ニ付各上告ヲ爲シタルニ付刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
吉次郎上告趣意ノ要旨第一點ハ本件ハ當事者合意ノ上便宜上土地ノ名義ヲ變換シタルモノナルコトハ各證據ニ依リ明ナルニ拘ハラス原院カ該證據ニ反シ地所ヲ騙取シタルモノト判定シタルハ刑事訴訟法第二百六十九條以下ノ規定ニ反スル不法アリト思考スト云フニ在レトモ◎事實ノ認定證據ノ取捨ハ原院ノ職權ニ屬スルヲ以テ之カ當否ヲ論爭スルモ以テ適法ノ上告理由トナスヲ得ス』同第二點ハ凡ソ詐欺取財ノ罪ハ人ヲ欺罔シ財物ヲ騙取スルニ依テ成立スルモノニシテ其詐欺ノ手段ハ財物騙取以前若クハ同時ニ在ルコトヲ要ス然ルニ被告ハ地所ヲ騙取セントノ意思アリタルニ非ス本件被告事件ハ本多ツルカ其所有地ノ負擔スル債務ヲ計算スル爲メ合意上鳥居朋來ヲ以テ表面上所有者ノ名義トナシタルニ過キス故ニ朋來ニ於テ其所有名義ヲ得タルヲ奇貨トシ爰ニ悪意ヲ生シ眞ノ所有者ナリト唱ヘ第三者ニ轉賣シタルモノトスレハ冐認罪トナルハ格別之カ爲メ詐欺取財罪ヲ構成スヘキモノニ非サルヲ以テ原判决ニ於テ詐欺取財罪ノ法條ヲ適用シタルハ擬律ノ錯誤ナリト云フニ在リ◎然レトモ原判文ニハ「朋來ト共謀シ婦女ノ物慣レサルニ乘シ之ヲ欺キ該地所ヲ騙取セント企テ」云々トアリテ則チ原院ノ認メタル事實ニ依レハ詐欺取財ノ法條ヲ適用スヘキハ當然ナルヲ以テ擬律ニ錯誤アリト云フヲ得ス』同第三點ハ被告ハ最初ヨリ惡意アリタルニ非ス又害ヲ被フリタル者アルニ非ス然ルニ有罪ノ判决ヲ下サレタルハ不法ナリ假リニ犯罪アリトスルモ被告ヲ共謀者トナスニハ其談合ノ状况趣旨ヲ明示セサル可カラサルニ單ニ吉次郎ト共謀シ云々トノミ掲ケタルハ理由不備ノ裁判ナリト云フニ在リ◎然レトモ地所ヲ騙取センコトヲ共謀シタル旨ヲ掲ケ且其騙取シタル行爲ヲ明示シタル以上ハ犯罪ノ事實明瞭ナルヲ以テ別ニ其他ノ理由ヲ掲ケサルモ爲メニ不法ト云フヲ得ス又地所ヲ騙取シタルモノナルニ於テハ固ヨリ被害者ナシト云フヲ得ス而シテ其他ノ論旨ハ原院ノ認定シタル事實ヲ非難スルニ過キス』同第四點ハ被告事件ノ豫審决定書ノ正本ハ明治二十八年六月三十日付ニシテ日曜日ニ作リタルモノナリ抑モ日曜日ニ於テハ執務ヲ命セサルヲ以テ則チ豫審判事ハ職權外ニ作リタルモノナレハ正本ノ効力ナシ云々ト云フニ在レトモ◎法律上別段ノ規定ナキ以上ハ日曜日ト雖トモ職務ヲ行フコトヲ得サルモノニ非ス殊ニ豫審判事ノ如キハ其職務ノ性質上日曜日ト否トヲ區別スルヲ得サルモノナレハ假令日曜日ニ作リタル决定書ナリトスルモ固ヨリ不法ナリト云フヲ得ス』同第五點ハ本多ツルノ告訴状ニハ被告ノ氏名ナク且ツ被告ニ係リ檢事ヨリ起訴シタルコトナシ然ルニ第一二審ニ於テ被告ヲ有罪ナリト判决セシハ不法ナリト云フニ在リ◎然レトモ詐欺取財罪ハ告訴ヲ待テ受理スヘキモノニ非ルヲ以テ告訴状ニ被告ノ氏名アルヲ要セス而シテ檢事ヨリ起訴シタルモノナルコトハ一件記録ニ存在スル明治二十八年四月二十九日付ノ起訴状ニ依リテ明白ナリ』同第六點ハ第一二審ニ於テ民事原告人本多ツルノ親族本多徳平ヲ證人トシテ訊問シタル豫審調書ヲ以テ證據ニ供シタルハ不法ナリト云フニ在リ◎然レトモ徳平カ證人トシテ訊問ヲ受ケタルハ明治二十八年四月二日ニシテツルカ民事原告人トナリタルハ同年五月二十一日ナルヲ以テ徳平カ訊問ヲ受ケタル當時ニ在テハツルハ民事原告人ニ非ス故ニ該調書ハ正當ニ成立チタルモノナルヲ以テ第一審判决ニ於テ之ヲ採用シタルモ不當ニ非ス又第二審ニ於テハ全ク之ヲ採用セス』同第七點ハ原判决ニ「明治二十八年十一月十九日同町字湯宿岡田太三郎方ニ於テ巧ニツルヲ欺キ」云々トアレトモ久賀村役塲ノ證明書ノ如ク同町ニハ岡田太三郎ナル人名ナキコト明白ナリ故ニ原院ノ認定ハ架空臆測ニ出テタルモノナリト云フニ在レトモ◎右人名有無ノ如キハ事實ノ認定ニ外ナラサルヲ以テ是亦上告理由トナラス(判旨第四點)
辯護人齋藤孝治上告趣意擴張ノ要旨ハ詐欺取財罪ヲ成スニハ其財物ヲ自已ノ占有ニ歸セシムルコトヲ要スルカ故ニ本件被告ニ詐欺取財ノ罪アリトナスニハ地所ノ名義カ被告ノ名義ニ書換ヘラレタル事實ナカル可ラス然ルニ原判文ニハ「買受人鳥居朋來」云々「該地所ハ朋來賣主トナリ」云々トアリテ被告名義ニ變更セラレタルコトナキヤ明ナリ然ルニ原院カ此事實ニ對シ被告ニ詐欺財取ノ罪アリトセシハ不當ナリ加之判决事實ノ摘示ニ依ルモ本多ツルカ金圓他借ノ周旋ヲ申入レタルハ鳥居朋來ニシテ地所買受人ノ名義モ亦朋來ナレハ少クトモ被告カ鳥居朋來本多ツル間ノ周旋申込ノ關係ヲ聞知シタル事實ヲ認定シ之ヲ明示スルニ非サレハ「被告吉次郎ハ云々朋來ト共謀シ婦女ノ物慣レサルニ乘シ」ノ企圖アリトノ説明ハ突如トシテ本件罪案ト相副ハサル筋合ナレハ斯ノ如キ説明ヲ以テ被告ト朋來ト共ニ詐欺取財ヲ遂行シタル事實アリト爲スハ裁判ノ理由具備セサルモノナリト云フニ在リ◎然レトモ共犯ノ一人カ財物ヲ占有シタル以上ハ他ノ一人カ之ヲ占有セサレハトテ之カ爲メ犯罪ノ責任ヲ免ルヽコトヲ得ス故ニ地所ノ名義カ共犯者タル朋來ニ歸シタル以上ハ被告ニ於テ共ニ其責ヲ負擔スヘキモノナルヲ以テ原院カ被告ヲ有罪ト判决シタルハ當然ナリ又原判文ニハ「被告ハ云々本多ツルカ質入シテ云々金員他借ノ周旋ヲ鳥居朋來ニ依頼シ來リタルヨリ朋來ト共謀シ」云々トアリテ所謂被告カ朋來ツル間ノ周旋申込ノ關係ヲ聞知シタルモノト認メタルコト行文上自ラ分明ニシテ裁判ノ理由ニ於テハ毫モ欠クル所ナシ依テ此論旨モ亦上告理由トナラス
豐八代理人大野清盛上告趣意第一點ハ原判决ハ控訴棄却ノ理由トシテ「控訴人カ買収シタル地所ハ被控訴人ノ所有ニシテ公訴ノ判决ニ示シタル如ク鳥居朋來ノ騙取ニ係ルモノト認ムルヲ以テ云々」ト論述シタルモ其公訴判决トハ第一審判决ナルヤ第二審判决ナルヤヲ明示セサレハ何レノ判决ナルヤヲ知ル能ハサルヲ以テ則チ理由ヲ付セサル不法ノ判决ナリト云フニ在リ◎然レトモ原院ニ於テハ公訴ノ判决ト共ニ私訴ノ判决ヲ言渡シタルモノナルヲ以テ單ニ公訴ノ判决ト云フトキハ原院ニ於ケル公訴ノ判决ヲ指シタルコト極メテ明瞭ナルヲ以テ原判决ハ理由ヲ付セサルモノト云フヲ得ス』同第二點ハ公訴判决ニ示シタル如クト云フノミニテハ如何ナル事實理由ニテ本案地所ノ賍物タルヤヲ知ル可ラス而シテ本案ハ刑事付帶ノ私訴ナリト雖トモ公訴私訴ハ全然別訴訟ニシテ本件ノ如キ特ニ刑事被告人ト民事被告人トヲ異ニスルモノニ付テハ私訴判决ニ於テ騙取ノ事實理由ハ當然明示スヘキモノナリト信ス然ルニ之ヲ明示セサルハ則チ理由ヲ付セサル不法ノ判决ナリト云フニ在リ◎然レトモ公訴ト共ニ言渡シタル私訴ノ判决ニ付テハ則チ公訴判决ニ示シタル如クナリト云フ以上ハ一々事實理由ヲ再述セサルモ其關係人ニ在テハ既ニ了知スル所ナルヲ以テ再述セサルノ故ヲ以テ理由ヲ付セサルモノト謂フヲ得ス而シテ公訴ノ判决ニ付テハ地所ノ騙取ニ係リタルモノナリトノ事實ヲ詳記セルヲ以テ此點ニ付テモ原判决ヲ不法ナリト云フヲ得ス
以上ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件公訴私訴ノ上告ハ之ヲ棄却ス
私訴上告費用ハ私訴上告人ニ於テ負擔ス可シ
明治二十九年五月十一日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事應當融立會宣告ス
◎判決要旨
(判旨第四点) 法律上日曜日の職務執行を禁じたる例規あることなし
(同点) 予審判事は其職務の性質上日曜日と否とを区別するを得ざるものなれば仮令其決定書の作成にして日曜日に該当するも之を以て不法となすを得ず。
(判旨第八点) 詐欺取財事件に付、共犯の一人財物を占有したる以上は他の一人之を占有せざるも共に騙取の責任を逭るるを得ず。
公訴上告人 小林吉次郎
弁護人 斎藤孝治
私訴上告人 森下豊八
私訴被上告人 本田つる
右吉次郎が詐欺取財被告事件の公訴私訴に付、明治二十九年四月十三日東京控訴院に於て本件控訴は之を棄却すと言渡したる判決に対し被告吉次郎は公訴に付、豊八は私訴に付、各上告を為したるに付、刑事訴訟法第二百八十三条の式を履行し判決すること左の如し
吉次郎上告趣意の要旨第一点は本件は当事者合意の上便宜上土地の名義を変換したるものなることは各証拠に依り明なるに拘はらず原院が該証拠に反し地所を騙取したるものと判定したるは刑事訴訟法第二百六十九条以下の規定に反する不法ありと思考すと云ふに在れども◎事実の認定証拠の取捨は原院の職権に属するを以て之が当否を論争するも以て適法の上告理由となすを得ず。』同第二点は凡そ詐欺取財の罪は人を欺罔し財物を騙取するに依て成立するものにして其詐欺の手段は財物騙取以前若くは同時に在ることを要す。
然るに被告は地所を騙取せんとの意思ありたるに非ず本件被告事件は本田つるか其所有地の負担する債務を計算する為め合意上鳥居朋来を以て表面上所有者の名義となしたるに過ぎず。
故に朋来に於て其所有名義を得たるを奇貨とし爰に悪意を生じ真の所有者なりと唱へ第三者に転売したるものとすれば冒認罪となるは格別之が為め詐欺取財罪を構成すべきものに非ざるを以て原判決に於て詐欺取財罪の法条を適用したるは擬律の錯誤なりと云ふに在り◎。
然れども原判文には「朋来と共謀し婦女の物慣れざるに乗し之を欺き該地所を騙取せんと企で」云云とありて則ち原院の認めたる事実に依れば詐欺取財の法条を適用すべきは当然なるを以て擬律に錯誤ありと云ふを得ず。』同第三点は被告は最初より悪意ありたるに非ず又害を被ふりたる者あるに非ず。
然るに有罪の判決を下されたるは不法なり。
仮りに犯罪ありとするも被告を共謀者となすには其談合の状況趣旨を明示せざる可からざるに単に吉次郎と共謀し云云とのみ掲げたるは理由不備の裁判なりと云ふに在り◎。
然れども地所を騙取せんことを共謀したる旨を掲げ、且、其騙取したる行為を明示したる以上は犯罪の事実明瞭なるを以て別に其他の理由を掲げざるも為めに不法と云ふを得ず。
又地所を騙取したるものなるに於ては固より被害者なしと云ふを得ず。
而して其他の論旨は原院の認定したる事実を非難するに過ぎず』同第四点は被告事件の予審決定書の正本は明治二十八年六月三十日付にして日曜日に作りたるものなり。
抑も日曜日に於ては執務を命ぜざるを以て則ち予審判事は職権外に作りたるものなれば正本の効力なし。
云云と云ふに在れども◎法律上別段の規定なき以上は日曜日と雖とも職務を行ふことを得ざるものに非ず殊に予審判事の如きは其職務の性質上日曜日と否とを区別するを得ざるものなれば仮令日曜日に作りたる決定書なりとするも固より不法なりと云ふを得ず。』同第五点は本田つるの告訴状には被告の氏名なく且つ被告に係り検事より起訴したることなし然るに第一二審に於て被告を有罪なりと判決せしは不法なりと云ふに在り◎。
然れども詐欺取財罪は告訴を待で受理すべきものに非るを以て告訴状に被告の氏名あるを要せず。
而して検事より起訴したるものなることは一件記録に存在する明治二十八年四月二十九日付の起訴状に依りて明白なり。』同第六点は第一二審に於て民事原告人本田つるの親族本田徳平を証人として訊問したる予審調書を以て証拠に供したるは不法なりと云ふに在り◎。
然れども徳平が証人として訊問を受けたるは明治二十八年四月二日にしてつるか民事原告人となりたるは同年五月二十一日なるを以て徳平が訊問を受けたる当時に在てはつるは民事原告人に非ず。
故に該調書は正当に成立ちたるものなるを以て第一審判決に於て之を採用したるも不当に非ず又第二審に於ては全く之を採用せず。』同第七点は原判決に「明治二十八年十一月十九日同町字湯宿岡田太三郎方に於て巧につるを欺き」云云とあれども久賀村役場の証明書の如く同町には岡田太三郎なる人名なきこと明白なり。
故に原院の認定は架空臆測に出でたるものなりと云ふに在れども◎右人名有無の如きは事実の認定に外ならざるを以て是亦上告理由とならず(判旨第四点)
弁護人斎藤孝治上告趣意拡張の要旨は詐欺取財罪を成すには其財物を自己の占有に帰せしむることを要するが故に本件被告に詐欺取財の罪ありとなすには地所の名義が被告の名義に書換へられたる事実なかる可らず。
然るに原判文には「買受人鳥居朋来」云云「該地所は朋来売主となり」云云とありて被告名義に変更せられたることなきや明なり。
然るに原院が此事実に対し被告に詐欺財取の罪ありとせしは不当なり。
加之判決事実の摘示に依るも本田つるか金円他借の周旋を申入れたるは鳥居朋来にして地所買受人の名義も亦朋来なれば少くとも被告が鳥居朋来本田つる間の周旋申込の関係を聞知したる事実を認定し之を明示するに非ざれば「被告吉次郎は云云朋来と共謀し婦女の物慣れざるに乗し」の企図ありとの説明は突如として本件罪案と相副はざる筋合なれば斯の如き説明を以て被告と朋来と共に詐欺取財を遂行したる事実ありと為すは裁判の理由具備せざるものなりと云ふに在り◎。
然れども共犯の一人が財物を占有したる以上は他の一人が之を占有せざればとて之が為め犯罪の責任を免るることを得ず。
故に地所の名義が共犯者たる朋来に帰したる以上は被告に於て共に其責を負担すべきものなるを以て原院が被告を有罪と判決したるは当然なり。
又原判文には「被告は云云本田つるか質入して云云金員他借の周旋を鳥居朋来に依頼し来りたるより朋来と共謀し」云云とありて所謂被告が朋来つる間の周旋申込の関係を聞知したるものと認めたること行文上自ら分明にして裁判の理由に於ては毫も欠くる所なし。
依て此論旨も亦上告理由とならず
豊八代理人大野清盛上告趣意第一点は原判決は控訴棄却の理由として「控訴人が買収したる地所は被控訴人の所有にして公訴の判決に示したる如く鳥居朋来の騙取に係るものと認むるを以て云云」と論述したるも其公訴判決とは第一審判決なるや第二審判決なるやを明示せざれば何れの判決なるやを知る能はざるを以て則ち理由を付せざる不法の判決なりと云ふに在り◎。
然れども原院に於ては公訴の判決と共に私訴の判決を言渡したるものなるを以て単に公訴の判決と云ふときは原院に於ける公訴の判決を指したること極めて明瞭なるを以て原判決は理由を付せざるものと云ふを得ず。』同第二点は公訴判決に示したる如くと云ふのみにては如何なる事実理由にて本案地所の賍物たるやを知る可らず。
而して本案は刑事付帯の私訴なりと雖とも公訴私訴は全然別訴訟にして本件の如き特に刑事被告人と民事被告人とを異にするものに付ては私訴判決に於て騙取の事実理由は当然明示すべきものなりと信ず。
然るに之を明示せざるは則ち理由を付せざる不法の判決なりと云ふに在り◎。
然れども公訴と共に言渡したる私訴の判決に付ては則ち公訴判決に示したる如くなりと云ふ以上は一一事実理由を再述せざるも其関係人に在ては既に了知する所なるを以て再述せざるの故を以て理由を付せざるものと謂ふを得ず。
而して公訴の判決に付ては地所の騙取に係りたるものなりとの事実を詳記せるを以て此点に付ても原判決を不法なりと云ふを得ず。
以上の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り本件公訴私訴の上告は之を棄却す
私訴上告費用は私訴上告人に於て負担す可し
明治二十九年五月十一日大審院第二刑事部公廷に於て検事応当融立会宣告す