土地の占有のみに關する訴訟は區裁判所の管轄に屬するものとす
原告東京府南葛飾郡寺島村大字寺島二千二百十七番地平民無業井上フサ被告同府同郡同村二千百二十七番地山崎源右衛門間の明治三十五年(ワ)第五一四號占有保全の訴訟事件に付き東京地方裁判所民事第三部裁判長判事熊谷直太判事成道齊次郎判事三井久次の三氏は左の如く判决せり
(主文)原告の訴を却下す訴訟無費は原告の負擔とす
(事實及理由)原告訴訟代理人遠藤正治は被告は原告に對し金五百金を損害の擔保として引渡す可し訴訟費用は被告の負擔とすとの判决あり度き旨申立て其理由として主張したる事實の要領は原告は東京府南葛飾郡寺島村大字寺島深瀬入二千二百十七番地宅地二十三歩同所二千三百十六番地宅地一反一畝二十五歩同所二千百八十番地二千百八十番二千百八十二番合併一號田四畝三歩の地所を所有し且つ前記二番の宅地に住居し一筆の田地を占有せり被告は右三筆の地所の隣地なる二千百七十八番の一號田三畝十三歩の此所の全面を右三筆の地所との境界線を距る僅に一尺の處より深さ二丈餘を堀り其土を東武鐵道の工事用に供したるを以て一大空穴を生し爲めに原告か占有せる前記三筆の地所の堀取場所に隣接せる境界延長二十五間半の附近の部分は將に陷落せんとするの虞あり若し陷落せは原告の損害は五百圓餘に及ふ可きを以て之か擔保を請求したるも被告に於て應せさるに依り本訴に及ひたりと云ふにあり被告訴訟代理人小島重太郎は占有の訴なるを以て區裁判所の管轄に屬すへきものにして管轄違の妨訴抗辯に提出し本案の辯論を拒む旨陳述したり
案するに本訴は原告か占有する土地は將に生せんとする損害の擔保を請求するものなること原告主張の事實に依りて明なり是れ占有に基因せる訴にして本權の訴にあらす即ち裁判所構成法第十四條第二號(ハ)に所謂占有のみに關する訴訟なるを以て區裁判所の管轄に屬す可きものなり依て原告の妨訴抗辯其理由ありとし主文の如く判决す(五月九日判决)