新缺席判决に於て前の缺席判决を維持するときは前の缺席判决は之か爲め全く吸收せられ其形式實體共に存在を失ふものなるを以て縱令後の缺席判决か廢棄せらるヽも之か爲め一旦消滅したる前の缺席判决は再ひ其存在を囘復するものにあらす
控訴人長野縣小縣郡神川村五百三十三番地平民山邊忠助被控訴人新潟縣中頚城郡高田町大字下田端平民金子安平間の明治三十四年(子)第四三九號年賦貸金請求の控訴事件に付き東京控訴院民事第四部裁判長齋藤十一郎判事宮島鎌三郎判事高橋覺判事本橋啓吉判事今村恭太郎の五氏は左の如く判决せり
(主文)原判决及原審の判决手續を廢棄し事件を原審に差戻す
(事實)控訴人は明治卅四年三月廿五日長野地方裁判所上田支部の言渡したる判决に對し控訴を爲し原判决を廢棄し被控訴人の請求を棄却すとの判决あらんことを求むる旨申立て被控訴人は控訴棄却を求めたり
(理由)職權を以て原審に於ける判决手續の當否如何を案するに原判决は明治三十二年七月五日原審か當事者間に言渡したる缺席判决を維持する旨を言渡せり然るに該缺席判决は同審か同年十二月八日當事者間に言渡したる后の缺席判决に於て之を維持する旨を言渡したれは此后の缺席判决の爲めに前の缺席判决則ち明治三十三年七月五日の缺席判决は全く吸收され其形式實體共に既に存在を失ふたるものなるを以て假令此后の缺席判决を更に廢業するの判决あるも之れか爲め一且消滅したる前の缺席判决は再ひ其存在を囘復する者にあらす然るに原審は民事訴訟法第二百六十一條前段の適用を誤り其存在を失ふたる前掲缺席判决を維持する旨の言渡しを爲したるは則ち判决に適法の主文を掲さる違法あるを以て民事訴訟法第四百二十三條に則り本院は主文の如く判决せり(六月三日判决)