土地詐害賣買取消及賣買約定履行請求控訴事件
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法律新聞(新聞)91号8頁


詐害廢罷の訴と契約履行の訴とは全然別箇のものなるに依り廢罷の訴か棄却せらるゝことあるも之を以て履行の訴を不當なりと云ふを得す
係爭地か他人に屬する事實あるも之か爲め其土地に付き賣買登記手續か不能に歸するものにあらす
控訴人栃木縣芳賀郡水路村大字西水沼平民農阿久津幸吉右訴訟代理人辯護士花井卓藏同高野金重被控訴人同縣同郡同村大字東水沼平民無業管谷末吉右訴訟代理人辯護士若目田健二郎等は明田卅四年第三八八號土地詐害賣買取消及賣買約定履行請求の控訴事件に付き東京控訴院民事第三部裁判長判事板崎備判事松平信與判事布施文四郎判事平野正富判事藤瀬彌一郎の五氏は左の如く判决せり
(主文)當院か本件に付き明治卅四年十月廿四日言後したる缺席判决を維持す、右缺席判决以後に生したる訴訟費用は被控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は一定の申立として第一審判决中「被告幸吉は金百六十九圓を受取り下野國芳賀郡水橋村大字東水沼二三二三番字櫻内山林一町七反七畝廿五歩を原告に賣渡し登記理由の手續を爲すへし訴訟費用は被告幸吉に對する部分は幸吉の負擔とすとの部分を變更し被控訴人の請求は棄却す訴訟費用は第一二審共被控訴人の負擔とするの判决あらんことを求むと申立て被控訴人は控訴を棄却し訴訟費用は控訴人の負擔とすとの判决を求むと申立てたり而して當事者雙方の演述せる事實關係は第一番判决中控訴以外の事實摘示を除く外總て同一なるを以て之を援用す、
(理由)甲第一、二號證控訴人名下の印影は同人の印影たること其認むる所なるに依り同號證の成立も亦眞正なりと爲さゝるを得す從て此記事も亦眞正なりと認むるを正當とす然るに控訴人は乙號各證及證人佐藤周藏關山銈太郎の證言に因り右甲第一、二號證の成立竝に其記載事實を否認すと雖も該乙號證及證人の證言は何れも其主張の事實を證するに足らす又控訴人は先きに被控訴人に於て控訴人と阿久津源次との係爭地賣買の廢罷を求め之を廢罷したる後ち係爭地賣買契約の履行を爲さめんと訴求したるものにして右廢罷の訴は被控訴人の敗訴に歸したるか故に最早契約履行を爲し得へからさるのみならす其賣渡履行登記手續の如きは係爭地所有權の阿久津源次に歸し動す可からさる今日に在りては控訴人の到底爲し爲へからさる事なるを以て被控訴人の請求不當なりと主張すと雖も係爭地賣買廢罷の訴と契約履行の訴とは判然別個の者なるに依り廢罷の訴にして棄却せられたりとするも之を以て直ちに契約履行の訴を以て不當なりと爲すを得す又係爭地賣買登記手續の如きは係爭地の他人に屬せる事實を以て其履行の不能に歸したるものと爲す可からさるに依り控訴人の主張は其當を得す右説明の如く控訴人の主張は其理由なきに依り民事訴訟法第二百六十一條第四百廿四條第七十七條に依り主文の如く判决せり(五月廿八日判决)