不動産竸賣開始决定再抗告事件
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法律新聞(新聞)90号7頁


抗告を以て不服を申立てられたる裁判を爲したる裁判所か再度の考案に基き抗告を理由ありとして其裁判を更正するときは抗告は茲に終局を告くるものなれは其抗告は之を抗告裁判所へ送付すへきものにあらす又抗告裁判所は之か送付を受くるも之を受理すへき限りにあらす
抗告人東京市小石川區水道端町一丁目二十八番地上條クワ方平澤甲三郎は明治三十五年(ロ)第九四號事件に付き爲したる再抗告に付東京控訴院民事第一部裁判長判事榊原幾久君判事鈴木喜三郎判事松岡正義判事平島及平判事淺見倫太郎の五氏の與へたる决定は次の如し
(主文)明治三十五年四月一日東京地方裁判所か本件に付き爲したる抗告棄却の决定は之を廢棄す
(事實及理由)本件不動産竸賣開始决定に對する抗告事件に付き東京地方裁判所か爲したる决定に對し抗告人は當院に再抗告を爲したり
其抗告理由の要旨は竸賣法に依る不動産竸賣は權利の實體に付き爭なき場合に限り之を許すへきものなるに本件の如き權利の實體に付き爭ある場合に於て相手方の申立を相當と爲したる原裁判は不法なりと云ふに在り
案するに竸賣法に依る不動産竸賣の申立ありたる場合に於ては實體上權利の爭ひあるときと雖も裁判所は其申立の當否に付き相當の判斷を爲し得へきは當然なるを以て原裁判所か本件の場合に於て竸賣申立を理由あるものとなし抗告人の抗告を棄却したるは相當にして此點に關しては抗告は其理由なし然れ共一件記録を調査するに本件に付き明治四年九月廿八日東京區裁判所か與ひたる竸賣開始法决定に對する抗告人の抗告に因り同裁判所か再度の考案に基き其抗告を理由ありとし右開始决定を取消し竝に竸賣申立を却下したること及本抗告を以て不服を申立てられたる東京地方裁判所の决定は右同一の抗告に付き裁判を爲したるものなること明白なりとす抑も抗告は不服を申立てられたる裁判を爲したる裁判所か再度の考案に基き其抗告を理由ありとし不服を申立てられたる裁判を更正するときは其抗告は茲に終局を告くるものなれは右竸賣開始决定に對する抗告は東京區裁判所か再度の考案に基き爲したる更正决定に因り既に終了したるものにして同裁判所は之を東京地方裁判所に送付すへきものに非す又同地方裁判所も之を受理すへき限りに非るなり然るに原裁判所か更に之を受理し抗告棄却の裁判を爲したるは失當にして抗告は結局其理由あるものとす云々(五月十二日决定)