海面使用承認取消請求事件
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法律新聞(新聞)88号8頁


一部落たる一個の主體か爲すへき訴訟行爲は其主體を代表すへきものに於て之を爲すへきものにして其部落の住民か共同して爲すへきものにあらす
原告高知縣幡多郡白田川村伊田平民宮崎龜太郎外百十四人訴訟代理人藤崎朋之氏被告高知縣幡多郡白田川村上川口平民山崎仁助外九十四人訴訟代理人水野吉太郎氏間三十四年(ロ)第一三號海面使用に關する承諾取消請求の訴訟事件に付高知地方裁判所中村支部裁判所長小幡虎二郎判事金井榮施郎田所次助の三氏は第一審の判决を爲す左の如し
(主文)原告の請求相立たす訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告は一定の申立として被告等は幡多郡白田川村字白濱海面に於て鰤大敷網敷設に關し明治三十一年十一月十五日以降引續き高知縣知事に差出したる原告人の承諾を取消すべしとの判决を受けたしと云ひ其事實は前記白田川村白濱海面は原告等專用の慣行ある漁場にして被告共に於て去る明治三十一年頃鰤大敷網を常設するに抗り其承認を原告へ相談有之因て漁獲せしむる年限を定め尚被告等は右大敷網にて捕獲したる魚類は原告部落に設置せる魚揚場に於て賣捌かしむる條件を付して之か承認を與へ同年拾壹月拾五日付を以て高知縣知事宛の承認書を被告に交付し被告は此書面を願書に添付して敷設許可を得たり然るに被告等は其漁獲したる魚類を自己の部落にて賣捌き原告部落の魚揚場に於て賣捌くへき契約に違反するを以て先きに被告等に與へたる大敷網敷設の承認取消を求むる次第なりと云ふに在り立證方法として甲第一號證及二號證を提出し乙第一號證は否認せり
被告は一定の申立として原告の請求を棄却すとの判决を受けたしと云ひ其事實は原告陳述の如く白田川村白濱海面に於て鰤大敷網敷設に付き先きに高知縣知事に向て右許可出願の爲め原告人共の總代と稱するものより承認書の交付を受け願書に添付し敷設の許可を受けたることあるも右白濱海面は從來原告等專用の慣行ある漁場に非さるのみならす漁獲に付ての海面使用年限を取極めたること并に其漁獲したる魚類を原告部落の魚揚場に於て賣捌くへき義務を負擔したることなきに因り假令原告部落内にて賣捌くへき手續を踐ますとも决して契約に違反するものに非されは原告の請求する承認を取消すへき理由なしと云ふに在り立證方法として乙第一號證を提出し甲第一號證の成立は之を認め立證趣旨は否認すとの陳述を爲せり
(理由)案するに本案は先つ原告伊田部落住民か各個人の資格を以て訴訟を爲すへき性質のものなるわ將又伊田部落たる主體の資格を以て訴訟を爲すへき性質のものなるやを調査するの必要あり抑も本訴は伊田部落住民百拾七名か各個人の資格を以て共同請求を爲したるに在るも甲第一號證に高知縣幡形郡伊田村取切大魚網々代白濱村字馬木谷より界谷迄距離壹里四町以内の地に沿ひ陸地を距る拾五町一の碆沖へ同郡白濱村共有鰤網一統を限り伊田村竝順番を以て明治廿一年三月十日より向々使用仕候云々明治廿一年三月十日幡多郡伊田村總代杉本和平杉本藤平立花藤次杉本只太郎云々とあり同第二號證に別紙網代床の義は伊田部落の總代に有之候得共豫て伊田部落より出願の大敷網代許可の上は別紙出願網代は伊田部落に於て目下使用の見込無之に付其敷設位置漁期構造方法等を變更せす其他伊田部落漁業は防害とならさる限度に於て使用し云々明治三十一年十一月十五日幡多郡白田川村大字伊田浦部落總代杉本和平龜井熊太郎同濱村比左太郎とありて白田川村白濱海面使用に關しては伊田部落總ての住民か共用の利益を有し所謂一部落たる一個の主體を有するものに於て之を享受し决して伊田部内各住民の共有物たる性質を有するものと認め難し已に部落有の使用權に關する訴訟なる上は明治二十一年法律第一號町村制第百十四條第百十五條及第六十八條の規定に基き其部落を代表する處の自田川村長に於て本訴を提起すへきものにて結局本件は訴訟無能力者の行爲に出てたるものなるに付き全然之を排斥するを相當なりとす已に此點に付き原告等訴訟を爲す權能なきを判定したる上は他所爭の點は必要なきを以て説明せす因て主文の如く判决するものなり云々