海面使用承認取消請求控訴事件
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法律新聞(新聞)88号7頁


自己か爲したる意思表示を取消すは自己の意思表示を以てせさる可らす他人に向て其取消を求むるは所謂不能を強ゆるものにして斯る訴は不適法のもととす
控訴人高知縣幡多郡白田川村宮崎龜太郎外百十六人訴訟代理人辯護士藤崎朋之氏被控訴人同土山崎仁助九九十四人訴訟代理人辯護士水野吉太郎氏右復代理人辯護士林龍太郎安藤桂二氏間の控訴事件に付大阪控訴院民事第一部裁判長石川正判事辻保造安井璞久田濟衆高木成則の五氏は判决すること左の如し
(主文)本件控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は第一審判决を廢棄し被控訴人は高知縣幡多郡白田川村字白濱海面に敷設せる鰤大敷網に關し明治三十一年十一月十五日以降高知縣知事に差出したる控訴人の承諾を取消すへしとの判决を求むる旨申立且つ本件訴訟は漁業慣行上一種の權利にして控訴人共の共有に係るものなれは部落の財産にあらすと供述し被控訴人は本件控訴を棄却すとの判决を求むる旨申立且つ控訴人の訴求は自己の意思表示をは被控訴人をして取消さしめんとするものなれは不能を強ゆるものなりと供述したる外當事者事實上の主張は第一審判决に摘示する處と同一なるを以て之を引用す
(理由)按するに控訴人は幡多郡白田川村字白濱海面に於て鰤大敷網敷設に關し明治參拾壹年拾壹月拾五日以降高知縣知事に差出したる承認を取消さんと欲せは宜しく自己の意思表示に依り之を取消すへく苟も控訴人か爲したる意思表示をは被控訴人をして取消さしめんとするか如きは所謂不能を強ゆるものにして寸毫の效果を生することなきは洵に明白なる筋合なれは控訴人の要求は法律上何等の利益を有せさるものなるに依り本件は不適法の訴なりとす故に原判决は控訴人共の收得せる海面使用權を區法人の財産なりと判斷したる失當ありとするも如上の説明に依り本件控訴は結局理由なきに歸するを以て主文の如く判决す(四月八日言渡)