滿期日の確定させる手形は滿期日の記載なき手形と同しく一覽拂のものとす
支拂の塲所を定めたる塲合に其塲所以外に於て手形の呈示を爲し拒絶證書を作成するも其拒絶證書は適式のものと云ふを得す
原告千葉縣夷隅郡大原町九千七百三十七番地安形太兵衛被告東京市日本橋區龜島町一丁目七十四番地板倉俊四郎間の明治三十五年(ワ)第二一〇號約束手形金請求事件に付き東京地方裁判所第五民事部裁判長鈴木英太郎判事須賀喜三郎渡邊一郎の三氏は判决すること左の如し
(主文)原告の請求を棄却す、訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告は被告は原告に對し金千五百圓外に之に對する明治三十年一月廿四日本件判决執行濟に至る迄年六分の割合の損害金を支拂ふ可し訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求む且執行前保證を立つるに付き假執行の宣言ありたしと申立て其陳述する事實の陽領は被告は明治三十四年十月卅日金額千五百圓の約束手形を支拂期日一覽拂支拂塲所東京市日本橋區蛎殼町一丁目二番地と定め原告に宛て振出したり依て原告は明治三十五年一月廿四日被告に對し該手形を呈示して支拂を求めたるも之に應せさるに付き茲に本訴提起に及ひたりと云ふに在りて立證として甲第一號乃至第四號證を提出し取寄に保る安形太兵衛に對する詐欺取財告訴事件の記録中檢事局の不起訴意見書并に片岡昇一に對する聽取書を援用したり
被告は原告の請求棄却の判决を求むと申立て其答辯の要旨は本件手形は原告に宛て被告より振出したるにあらすして原告の爲め詐取せられたるものなれは原告は其正當の所持人と云ふを得す且つ支拂の爲めにする手形呈示及ひ拒絶證書作成は本件手形に定めたる支拂の塲所に於てせさるを以て何れも不適式なれは被告は之か支拂に應するの義務なしと云ふにありて立證として土屋六藏萩原彌佐久郎の人證を申立て甲第一號證中被告の署名捺印のみを認め同第二號〓至第四號證の成立を認めたり
(理由)被告は本件約束手形は原告に於て被告より騙取したるものなれば原告は之か正當の所持人に非すと主張するも取寄に係る記録中東京地方裁判所檢事局の不起訴意見書并に片岡昇一に對する聽取書によりて原告の騙取したるにあらさることを認め得るのみならす被告は甲第一號證の署名捺印を認むるを以て他に立證なき限りは本件手形は被告より原告に宛て振出したるものと爲さゝるを得さるを以て此點に關する被告の抗辯は採用するに由なし然れとも本件約束手形には其支拂期日を確定せさるか故に全然滿期日の記載なきと等しく商法第五百二十九條第四百五十一條により一覽拂の手形と看做すへく又た商法第五百二十九條第四百八十二條により之か所持人は振出の日より一年内に手形を呈示して其支拂を求むることを要す其呈示の日を以て該手形の滿期日となすへきものなり尚ほ本件手形には特に支拂の塲所の定めあるを以て支拂の爲めにする呈示は其特定の塲所に於てし拒絶證書も亦其特定の塲所に於て作成すへき性質のものたり原告は支拂の爲めの呈示を爲したる旨主張するも甲第二號拒絶證書は手形に定めたる支拂の塲所にあらさる被告の住所に於て作成したるものなること明なれは法定の要件も具備せさる不適式のものと云ふ可く是れのみによりて呈示の事實を證したりとは云ふを得す而も原告其他に之か立證を爲さるゝを以て本件手形は正當の呈示ありし者と認め難く未た滿期日の到來せさる者と云はさるを得されは原告の本件訴求は履行期前の債務の履行を要求するものにして正當と云ふを得す依て訴訟費用に付き民事訴訟法第七十二條第一項を適用し主文の如く判决したり (三月廿八判决)