私書僞造行使上告事件
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法律新聞(新聞)86号11頁


文書僞造行使罪を構成するには其文書の行徒に因り他人に害を生し又は生し得へきことを要すされは縱令文書を僞造行使することあるも他人の爲めに却て利益を生し又は損害を生すへからさるときは犯罪を構成するものにあらす
愛知縣名古屋市榮町四丁目二番戸平民無業伊藤和勝に對する私書僞造行使被告事件に付き大審院刑事第二部裁判長長谷川喬判事岩田武儀木下哲三郎并原諸義鶴丈一郎鶴見守義末弘巖石の七氏は判决すること如左
(主文)被告美晴に對する原判决を破毀し事件を大阪控訴院に移す
(理由)辯證人高木盆太郎の論旨を按ずるに第一審判决の辯明に「文書僞造行使の犯意明かにして
(云々)假令事實上は後日承諾し得へきもの若くは其ものか利益となるへき事柄たりと雖も擅に他人名義の訴訟代理の委任状を僞造し之を行使するは犯罪たること疑を容れす」とあれとも文書僞造行使罪を構成するには其文書を行使したるに因り他人に害を生し又は生し得へきことを要するものにして他人名義の文書を僞造行使するも其者の爲め必ず利益を生し損害を生す可らさるときは固より犯罪を構成せさるや明なり故に他人名義の文書を僞造行使したるのみを以て當に犯罪なりと云ふ可らず然るに第一審判决は論旨に摘載したるか如く他人名義の委任状を僞造行使したるときは縱令其者の爲め利益となるへきときと雖も犯罪を構成するものと爲し被告等か僞造行使したる文書は果して他人に對し害を生し又は生し得へきものなるや否や判决せすして直に文書僞造行使の罪ありとして被告等を處罰したるは事實理由不備の判决なるを以て原院は之を取消し更に判决を爲すへきものなるに不拘被告の控訴を棄却したるは上告所論の如く失當にして原判决は破毀を免れさるものとす云々 (四月廿四日言渡)