推定家督相續人廢嫡取消請求事件
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法律新聞(新聞)85号10頁


廢嫡せられたる家督相續人が廢嫡の原因消滅したるを以て其廢除の取消を請求するには現時の推定家督相續人を相手方とするものとす
原告東京市日本橋區富澤町二十七番地平民商小林大助被引同所平民商小林孝次郎間に於ける明治三十五年(タ)第三號推定家督相續人廢除取消請求事件に付き東京地方裁判所民事第一部裁判長判事横村米太郎同三宅徳業同北條元篤の三氏は判决すること左の如し
(主文)原告の請求を却下す、訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告訴訟代理人羽生顯親は小林徳太郎か原告の法定の推定家督相續人たることの廢除を取消す訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求むと申立て其事實として小林徳太郎は原告長男なるも東京市芝區櫻田本郷町十一番地保井久七の懇請に依り其嗣子養子となることの約整ひ明治二十二年五月二十八日其理由を以て日本橋區長の許可を得て徳太郎を廢嫡し明治二十二年五月三十日保井家に送籍したり然るに其後ち同家に於て養子の必要なきに至りたるを以て恊議の上離縁し明治二十三年二月五日徳太郎は原告家に復歸したり從つて先きに爲したる廢嫡の原因止みたるに因り本件の請求に及ひたり尚徳太郎には男子彦太郎あるも原告の次男孝次郎を以て本件の相手方と爲すと演述し立證として甲第一、二號證を提出したり、被告は原告の請求の如き判决を求むと申立て原告請求の原因たる事實竝に甲各號證を是認したり
(理由)按するに小林徳太郎か廢嫡せられたることは甲號證に依りて之を認め得べきも同人には彦太郎と稱する長男あること甲第一號證に依り明かなるか故に原告の法定の推定家督相續人は被告に非すして右彦太郎なること法律に照して明かなり故に本件の訴に於て被告を相手方と爲したるは適法ならす因て訴訟費用に付ては民事訴訟法第七十二條第一項を適用し主文の如く判决す(七日三月判决)