抗告を以て不服を申立てられたる裁判を爲したる裁判所か再度の考案に基き抗告を理由ありとして原裁判を更正したるときは抗告は茲に終局を告くるものたるを以て該抗告は更に位告裁判所へ送付するの要なく抗告裁判所に於ても受理裁判すへき限りに非す
抗告人東京市淺草區千束町二丁目百九十三番地宇田芳之助の提起に係る明治三十五年(ラ)第十五號竸落許可决定に對する再抗告事件に付東京控訴院民事第一部裁判長榊原幾久若判事鈴木喜三郎渡邊輝之助藤波元雄淺見倫太郎の五氏は决定すること左の如し
(主文)明治三十四年十二月二十三日東京地方裁判所か本件に付き爲したる抗告棄却の决定は之を廢棄す
(事實及理由)抗告人は東京地方裁判所か明治三十四年十二月二十三日附を以て同裁判所三四(リ)第二二三號不動産竸落許可决定に對する抗告事件に付き爲したる抗告棄却の决定に對し更に本抗告を提起し原决定を廢棄し更に適法の裁判あらんことを申立て其理由として二項の論旨を主張したり抗告理由第一の論者は債權者辻岡之助は抗告人に對し債權ありと稱し明治三十四年八月中竸賣法に依り不動産竸賣の申立を爲したるか爲め東京區裁判所は竸賣開始の决定及ひ竸落許可の决定を爲したるを以て抗告人は明治三十四年十一月中右二箇の决定に對し抗告を爲したる處東京區裁判所は該抗告を孰れも理由ありとして全然之を採用せられたるに拘らす東京地方裁判所は該抗告を受理して抗告棄却の裁判を爲したるは抗告に關する法則を誤りたるものなりと云ふに在り
仍て本件記録を調査するに東京區裁判所は本竸賣事件に付き明治三十四年十月二十六日附を以て與へたる竸落許可决定に對する抗告に因り再度の考案に基き其抗告を理由ありとし右竸落許可决定を取消し更に其竸落を許可せすと更正决定したること及ひ本抗告を以て不服を申立てられたる東京地方裁判所の决定は右同一の抗告に付き抗告棄却の裁判を爲したるものなることは洵に抗告人主張の如し而して抗告は之を以て不服を申立てられたる裁判を爲したる裁判所か再度の考案に基きて其抗告を全然理由ありとし不服を申立てられたる裁判を更正するときは其抗告は茲に終局を告くるものなれは右竸賣許可决定に對する抗告は東京區裁判所か再度の考案に基き爲したる更正决定に因り既に終了したるものにして同裁判所は之を東京地方裁判所に送付すへきにあらす又同地方裁判所も之を受理裁判すへき限りにあらさりしなり然るに裁判所か更に之を受理し抗告棄却の裁判を爲したるは失當にして本抗告は其理由あり且此抗告理由を以て本件の裁判を爲すに適切なるものと認むるを以て抗告理由第二の論述に付き當否を判斷するの必要なし是れ主文の如く决定すぬ所以なり(三月三十一日决定)