家屋の所有者は必しも其所有家宅に住居するものにあらさるを以て家宅内に存する物件を以て其家宅の所有者に屬するものと推定するは妥當にあらす
上告人東京市本所區元町七番地二谷源兵衛訴訟代理人辯護士山中平吉氏被上告人埼玉縣入間郡福岡村大字福岡五番地吉野彦太郎訴訟代理人辯護士會田龜太郎氏間の有休動産差押解放請求事件の上告に付き東京控訴院民事第一部裁判長榊原幾久若判事鈴木喜三郎松岡義正藤瀬彌一郎淺見倫太郎の五氏は判决すること左の如し
(主文)明治三十四年十月七日本件に付き浦和地方裁判所の云渡したる判决を破毀す、更に辯論及ひ裁判を爲さしむる爲め本件を浦和地方裁判所に差戻す
(事實及理由)上告訴訟代理人は原判决全部を破毀すとの判决を求むと申立て左の上告理由を陳述し被上告訴訟代理人上告棄却の判决を求むと申立て上告の理由に對し辯駁を爲したり
上告理由は原裁判所は差押の場所なる埼玉縣入間郡福岡村大字福岡五番地には債務者吉野三之助の住居せることを認めたるに拘はらす其差押の場所なる家宅は被上告人の所有に係るものなりとの理由を以て差押物件の總てか被上告人の所有物なりと推定したるものたり然れとも斯の如き推定は法律の認許する所にあらす何者世間他人の家宅内に住するものは往々之あり若し原裁判の如き推定を存し得へきものとせは借家人の財産は常に其家主の所有物なりと見做さるゝか如き奇怪なる結果を生するに至れはなり然るに原裁判所か斯の如き不法の推定を以て差押物件の所有權か被上告人に在るものとし上告人敗訴の判决を下したるは不法に事實を確定したる違法の判决と云はさるを得すと云ふに在り
案するに家屋の所有者は必すしも其所有家宅に住居するものにあらさるを以て家宅内に存する物件を其家宅所有者の所有に屬すと推定するは法律上正當にあらす故に原裁判所か果して然らは家宅所有者か其家宅内の物件を所有するもと推定すへきは當然なるを以て差押物品は總て控訴人は(被上告人)所有物と看做すを相當とすと判决し上告人に敗訴の云渡を爲したるは上告論旨の如く法律に違背して事實を確定したるものなり依て本件の上告を理由ありと認め民事訴訟法第四百四十七條及ひ適用し主文の如く評决したり(三月三十一日判决)