手形の振出銀行と支拂銀行との間に交互計算の契約ありたるときは互に手形を振出すことは推知せらるゝに由り支拂銀行の清算終了を竢たされは商法第四百四十四條の所謂受けたる利益となるや否やを知る能はす故に此場合に於て爲替賃金を以て其受けたる利益なりとし之を償還せしむるには他に其利益となりたる證明を爲さゝるへからす
控訴人大阪市東區高麗橋四丁目株式會社三十四銀行右代表者取締役小山健三訴訟代理人辯護士森作太郎氏被控訴人三重縣員辯郡南萬加村大字石槫南百四番屋敷岡又三郎訴訟代理人辯護士海野勳氏間の不當利得償還請求の控訴事件に付き大阪控訴院民事第一部裁判長遠山正綱判事石川正安井璞久田濟衆高木成則の五氏は判决すること左の如し
(主文)第一審判决を左の如く變更す、被控訴人の請求は之を棄却す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は前記主文の如き判决を求むる旨控訴人は控訴棄却の判决を求むる旨各一定の申立を爲したり而して雙方主張の事實は第一審判决の摘示と歸する所同一なる故に之を引用す
(理由)控訴人か甲第一號證の一二即ち被控訴人に於て手形上の權利を失ひたる小切手二葉を振出すに際し被控訴人より小切手面の百五十圓と八十圓との金額を受領したることは爭ひなき所なりと雖該小切手の支拂人たる百二十二銀行と控訴人との間に於て互ひに壹千圓を極度として手形を振出し暖ふ契約あることを乙第二號證に據りて認知し得るの結果控訴人か甲第一號證の一二を振出したる前後に於て百二十二銀行よりも控訴人を支拂人として小切手を振出し控訴人の支拂ひたるものあることも亦自ら推知し得へきに由り百二十二銀行の清算終了を竢たされは夫の百五十圓と八十圓との金額か果して商法第四百四拾四條の所謂受けたる利益となるや否やを知る能はすと云ふ控訴人の主張を正當なりとせさるへからす故に被控訴人に於て甲第壹號證の一二を受取るに際り控訴人に交付したる金額を以て其受けたる利益なりとし商法第四百四十四條に依りて之を償還せしめんとするには他に其利益となりたる所以の説明を爲さゝるへからす然るに別に之か證明を爲さゝるを以て其請求は此點に於て排斥するを相當とす是れ控訴を理由ありとし主文の如く判决する所以なり(三月十九日判决言渡)