類似商號使用停止并損害要償請求事件
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法律新聞(新聞)80号11頁


商法施行前に設立の登記を爲したる會社の社名は縱令商號登記簿に登記なきも商號專用權なしと云ふを得す
原告東京市牛込區西五軒町三十四番地江戸川製紙株式會社代表者渡邊融被告同市同區同町三十八番地江戸川製紙合資會社代表者岩佐太熊間の明治三十四年(ワ)第二一一〇號類似商號使用停止并に損害要償請求事件に付き東京地方裁判所第二民事部裁判長和仁貞吉判事北條門篤、三井久次の三氏は左の如く中間判决せり
(主文)江戸川製紙株式會社なる原告の御號は商業登簿に登記せられざるを以て原告は商號專用權を有せずとの被告の抗辯は之を棄却す
(事實)原告訴訟代理人は被告は江戸川製紙合資會社なる商號の使用を止むべく尚ほ明治三十四年十一月までの損害金三千七百五十二圓宛の割合の損害金并に損害囘復費用金三百圓を賠償す可し訴訟費用は被告の負擔とすとの判决あり度旨申立其理由として主張する事實の要旨は原告會社は明治二十六年十二月中の設立にかゝり同月廿九日設立登記を了し爾來江戸川製紙株式會社の商號を使用し製紙業を營み世間に信用と名譽との博し盛大に赴きたり然るに明治三十四年六月中被告會社は原告と同一營業に付き不正の竸爭を目的として設立せられ原告の商號に類似せる江戸川製紙會資會社なる商號を使用せるを以て原告は被告に右商號の使用停止及損害の賠償を求むと云ふに在り
被告訴訟代理人は原告請求棄却の判决を求むる旨申立て其理由として主張したる抗辯の一は原告會社か其主張の如き商號を有せる事其設立登記か其主張の日に爲されたる事は之を認むるは商號專用權を有するには特に商號登記簿に商號の登記を爲さゝるへからす然るに原告の商號は此登記なきを以て原告の請求は下當なりと云ふに在り
(理由)案するに商法施行前に設立の登記を爲したる會社の社名か商法の規定に從ひ登記したる商號と同一の效力を有する事は商法施行法第十條の規定する所にして明治二十六年七月廿九日設立の登記を爲したる原告會社は江戸川製紙株式會社なる其社名に就き商號專用權を有するや明かなるを以て商號登記簿に登記なきを以て原告に商號專用權なるとの被告の抗辯は其理由なきものなり依て主文の如く判决す(二月廿三日判决言渡)