民法第八百三十五條の法定代人理の認知請求權は法定代理人の資格に於て即ち未成年者を代表して爲すへきものにして法定代理人固有の權利にあらす
原告人福島縣石川郡中谷村大字雙里平民農近内サヨ訴訟代理人湊芳藏氏被告人仝縣仝郡仝村仝大字平民農相樂峯吉訴訟代理人飯澤亨氏間の明治三十三年(タ)第二二號私生子認知請求事件に付き福島地方裁判所白河支部裁判長判事堀合卓爾判事藤島吉康栗原藤太郎の三氏は判决すること如左
(主文)原告の訴は之を却下す
但訴訟費用は原告之を負擔すへし
(判决理由) 被告に於て本件は原告か自己の權利として未成年者たる近内峯吉を其子たりとの認知を請求すと雖とも民法第八百三十五條は特別規定の場合に屬す凡そ法律に於て父母たる者財産に關する代表行爲に付ては汎博の規定を設けたるも身分に關する代理行爲に付ては重大の結果を本人に及ほす者なるを以て之れに制限を置きたる者と信す故に原告か一個の資格として本訴を提起したるは法律の許容せさる所なりとし大審院判例を採用して中間判决を求め而して原告は私生子峯吉の母なるを以て仝人を代表せすと雖とも獨立して本件を提起すべき資格ある者なりとの防禦方法を申立たり依て按するに民法第八百卅五條子其直絲卑屬又は此等の者の法定代理人は父又は母に對して認知を求むることを得とあり此規定に依れは父又は母たる者等に於て自己は權利を以て訴權を行ふへき者に非すして所謂法定代理人たる資格を以て訴權を行ふへきや復た論を俟たす倘し原結か主張する如く其父母たる者に於て未成年者を代表せすして單に自己の訴權を行ふへき者とするときは其判决確定の結果は何人に其利益を及ほすべきや原告と雖とも未成年者に其效力を及ほすこと能はさるは異議なかるべし何となれば既判力か訴外者たる第三者を覊束すへき理由なきは一般の原則なるを以てなり故に主文の如く之れを判决す(明治三十四年十月廿七日判决言渡)