不動産強制竸賣開始决定に對する抗告事件
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法律新聞(新聞)70号9頁


一 不動産に對する強制執行の基本たる權利に付き爭あるときは民事訴訟法第五百四十五條に依り訴を以て異議を主張するへきものにして抗告の方法に〓るへきものにあらす
抗告人東京市神田區錦町三丁目十番地平民大工職山下松吉か提起したる明治三十四年(ソ)第一七二號不動産強制竸買開始决定に對する抗告事件に付き東京地方裁判所民事第二部裁判長和仁貞吉判事設樂勇雄横田五郎の三氏は左の如く判决せり
(主文)本件抗告は之を棄却す
(事實及理由)抗告事件の審査を爲すに抗告の趣旨は本件の不動産を桶當として合名會社田中銀行より金圓を借受けたる事は事實なるも明治三十四年五月廿五日金四拾五圓を同會社に交付して返濟期限を明治三十五年五月廿五日迄延はすとに定めたり然るに其期限前本件竸買の申立を爲したるものにして開始决定は不當なるに付き其取消を求むと言ふにあり
按するに不動産に對する強制執行の基本たる權利に付き爭あるときは民事訴訟法第五百四拾五條に依り訴を以て其異議を主張すへきものなり請求に關する執行異議の訴は法律か特に之を認めて強制執行に對する防禦方法となしたるものなるか故に此方法に依らすして開始决定に對する抗告の方法に依り基本たる權利に關し異議を主張するとは法律の認めさる所なりと解するを至當とす本件は債務履行の期限の未た到達せさるを以て異議を主張するものにして前段の理由に因り此抗告は法律の認めさる所なり因て當裁判所は主文の如く决定す(明治三十四年十二月决定)