一 民事訴訟法第四百一條第一號に所謂控訴せらるゝ判决の表示とは他の判决と識別し得へき方法を以て控訴せらるゝ判决を表示することを明するに過きすして必しも判决主文の全部を記載するを要せす
控訴人東京市日本橋區本材木町二丁目三番地平民商高藤半内訴訟代理人辯護士印東胤一氏被控訴人東京日本橋區箔屋町六番地平民商金子音太郎訴訟代理人辯護士赤尾藤吉氏間の明治三十四年(ネ)第七百八十一號約束手形金請求爲替訴訟の控訴事件に付東京控訴院民事第二部裁判長小山温判事齋藤十一郎中島松治郎高橋覺御原吉之助の五氏は左の如く判决せり
(主文)第一審判决を左の如く變更す控訴人の本訴を許さゝるものとして却下す、訴訟費用は第一審第二審共控訴人の負擔とす
(事實)控訴代理人に於ては第一審判决の全部を廢棄し被控訴人は控訴人に對し金三百五十圓及ひ之に對する明治三十四年三月一日より本件執行濟に至るまて年六朱の割合に於ける利息を支拂ふへし訴訟費用は被控訴人に於て負擔すへしとの判决を爲替訴訟として請求すと申立て被控訴代理人に於ては控訴人の控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とすとの判决を求むと申立てたり
控訴代理人は控訴状中第一審の判决主文は送達せられたる正本に基き記載したるものなりと陳述したる外其事實上の供述は第一審判文に摘示する所と同一なるを以て爰に之を引用す
被控訴代理人は控訴状中判决主文の記載の部に「原告の請求を棄却す」との第一審の判决を掲けさるを以て不適法の控訴なりと陳述したり(下略)
(理由)被控訴人に於て本件控訴連には「原告の請求を棄却す」との第一審判决を掲けさるを以て不適法の控訴なりと云ふも民事訴訟法第四百一條第一號に所謂控訴せらるゝ判决の表示とは他の判决と識別し得へき方法を以て控訴せらるゝ判决を表示することを命するに過きすして必すしも判决主文の全部を記載せさるへからさるものにあらす本件控訴状には東京地方裁判所民事第五部三十四年(ハ)一八二號事件に付き本年六月二十一日の判决に對する控訴なる旨の明記あるを以て他の訴訟事件に關する判决と區別し得るに足るものとす故に控訴せらるゝ判决表示の要件を缺きたるものと云ふを得す因て此點に於ける被控訴人の抗辯は採用し難し(下略)(明治三十年十一月九日判决言渡)