預金請求控訴事件
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法律新聞(新聞)66号10頁


控訴人東京府西多摩郡戸倉村十八番地平民農私市角太郎訴訟代理人辯護半利光品吉氏被控訴人神奈川縣橘樹郡稻田村字千五百三十五番地平民農濃沼歳太郎訴訟代理人辯護士三宅福作氏間の預金請求控訴事件に付き東京控訴院民事第一部裁判長遠藤忠次判事齊藤十一郎鈴木喜三郎平野正富相原祐彌の五氏は左の如く判决せり
(主文)本訴訟訴は之を棄却す、第二審の訴訟費用は控訴人の負擔すと
(事實)控訴人は明治三十三年六月廿三日東京地方裁判所八王子支部か言渡したる第一審判决の全部を廢棄し被控訴人の請求を却下すとの判决を求め被控訴人は控訴棄却の判决を求めたり而して當事者雙方事實上の主張は原判决に摘示する所と同一なるを以て之を引用す
立證として被控訴人は甲第一號證を提出し該證に付き檢眞の申立を爲し第一審に於ける鑑定人の鑑定を援用し控訴人は乙第一號證を提出し鑑定人の申立を爲したり
(理由)甲第一號證の筆蹟と控訴人か第一審に於て手記したる筆蹟との異同に付鑑定人六名の内田中林之助のみは異筆なりとの鑑定を爲したれとも兩者を對照するに其筆蹟は多く同一にして林之助の鑑定は之を採用するに足らす但同證中控訴人の名下外二ケ所に押捺せられたる印影か村役場備付の控訴人の印影に異なることは被控訴人も爭はさる所なれとも村役場備付の印影に異りたる印影と雖とも事實上之を使用するを得さるものにあらされは之か爲めに自筆の證書を眞正にあらすと謂ふを得さるものとす從て甲第一號證は眞正に成立したるものと認めさるへからす而して其記載事項に依れは被控訴人の主張する事實の眞實なることを認むるに足るを以て被控訴人の請求は正當なりとす以上の理由に依り主文の判决を爲す(十二月二日判决言渡)