上告人長野縣南佐久間郡平賀村二百五十五番地平民農田中徳左衛門訴訟代理人辯護士松田源治氏被上告人同縣北佐久間郡志賀村百七十六番地平民農神津九郎兵衛訴訟代理人辯護士岡村輝彦高橋織之助兩氏間の地代確認地代支拂請求事件の上告に付き東京控訴院民事第一部裁判長遠藤忠次判事鈴木喜三郎平野正富平島及平相原祐彌の五氏判决する左の如し
(主文)本件上告は之を棄却す、訴訟費用は上告人の負擔とす
(事實及理由)上告訴訟代理人は明治三十四年五月三十一日長野地方裁判所か言渡したる判决に對し上告を爲し該判决破毀の申立を爲し二個の上告理由を陳述し被上告訴訟代理人は本件上告の棄却を求め上告理由を辯駁したり
上告理由第一點の要旨は原判决は「當事者間に地上權設定の默約ありたるものと云はさるへからさるに付き被控訴人は控訴人か所有權取得の時より地代金を支拂ふ義務あるものとす」と説明せられたれとも本件係爭地は宅地一筆に畑一筆なることは原審の認むる所にして然かも右畑地は耕作の爲め使用するものなれは地上權の設定あるへき謂れなし然るに地上權ありとし地代の支拂を命したるは地上權の法則に違背する不法の裁判なりと云ふに在り被上告人の之に對する答辯の要旨は上告人は原審に於て畑地は耕作の爲め使用するものなりとの主張は絶て之を爲したることなく反て係爭地所に建物を所有し云云と陳述せるものなれは原審の判定は毫も不法にあらすと云ふに在り
仍て按するに畑地なる地目を有する土地を耕作の爲めに使用する場合は之を地上權なりと云ふことを得さるは素より論を俟たたる所なりと雖とも建物を所有するか爲めに畑なる地目を有する土地を使用する權利を認めて地上權なりとするは毫も地上權の本質を害するものにあらす原審は本件係爭地所は建物所有の爲め使用するものなりとの上告人の供述あるか故に畑なる地目を有する土地も耕作の爲めに使用するにあらすして建物所有の爲めに使用するものなりと認定し地上權なることを判定したるものなれば毫も地上權の法則に違背するものにあらす
上告理由第二點の要旨は不動産に關する物權の得喪は登記法の定むる所に從ひ登記を爲すに非されは第三者に對抗すること能はさるものなり然るに原審に於ては「被控訴人は扣訴人か竸落許可决定により係爭地所の所有權を取得したるの事實を竸落當時既に了知し係爭地所を使用するものなれは云々」と説明し控訴人か被控訴人使用の土地に關し所有權の登記を爲したるは明治三十三年七月廿三日なるに係はらす同三十三年三月廿四日代金完納の當時より第三者たる被控訴人に登記なくして對抗することを得るものとなしたるは法則を不法に適用せし裁判なりと云ふに在り之に關する被上告人の答辯の要旨は登記は所有權移轉の要件にあらされは登記以前と雖とも所有權取得者と其不動産を目的とし一定の法律行爲をなすときは其行爲は當事者間に於ては有效なるへきは疑を容れさる所なれは原審か本件當事者間に所有權移轉の登記以前より法律行爲ありたることを認めたるは毫も不法にあらすと云ふに在り
仍て案するに原審は被上告人か竸落許可に依り所有權者を取得したる當時に於て上告人と地上權設定の行爲ありたるの事實を認定したることは其判决理由の記載に徴して明白なれは上告人は被上告人か所有權取得の登記を爲さゝるを理由とし地上權設定行爲に因り生したる地代支拂の義務を拒絶すること能はさるの地位に在るものなり換言すれは上告人を以て第三者なりと論するを得さるか故に本論旨は其正鵠を得たるものにあらす依て民事訴訟法第四百五十二條に依り主文の如く判决するものとす(十一月二十五日判决云渡)