家屋明渡強制執行異議の訴
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法律新聞(新聞)63号8頁


原告東京都神田區千代田町六番地平民城塚源藏訴訟代理人辯護士中鉢美明氏被告同市小石川區餌差町三十三番地平民駒井茂兵衛訴訟代理人辯護士坂本生成氏間の明治三十四年(ワ)第一五四二號強制執行異議の訴に付き東京地方裁判所第五民事部裁判長鈴木英太郎判事川久保源治古閑又五郎の三氏判决すること左の如し
(主文)被告が東京地方裁判所明治三十四年(ワ)第五九六號の判决に基き明治三十四年八月十七日東京都下谷區下谷町二丁目四番地所在木造瓦葺二階建壹棟建坪六十八坪九合三勺七才二階六十三坪壹合二勺二才の建物に關して爲したる強制執行は之を許さず、訴訟費用は被告の負擔とす
本件に付明治三十四年八月廿三日當地方裁判所の言渡したる強制執行停止决定は之を認可す、
前項に限り假りに執行することを得
(事實)原告代理人一定の申立は主文表示の如き判决を求むと云ふに在りて其原因たる事實關係として原告は明治三十三年十二月廿四日訴外人粟津ヤス所有の前記主文表示の建物を抵當として同人へ金二千七百圓を貸與したるに其辯濟期日を經過するも之を返濟せざるに因り原告は抵當權實行として右建物の強制竸賣の申立を爲し明治三十四年七月九日原告は竸落許可决定を得たり從て其所有權は原告に歸したる次第なるに被告は訴外人粟津ヤスに對する東京地方裁判所明治三十四年(ワ)第五九六號判决に基き明治三十四年八月十七日該建物の取毀ちに着手し既に其大部分を取毀ちたるも尚其柱及壁等は立存せり是れ被告は當事者以外の者に對して决决の執行を爲さんとするものにして不當の執行たるや明なるを以て本訴を提起したる所以なりと陳述し尚右竸落許可决决は之に對する被告の異議の申立ありて未だ確定せざること及び原告は右建物に對する所有權取得の登記を爲さゞることは爭はざる旨供述したり
被告代理人は原告の請求を棄却し訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を求める旨申立て其答辯の理由として被告が訴外粟津ヤスに對する強制執行の爲め係爭家屋を取毀ちたる事實は之を是認するも其執行は原告が本訴提起前既に執行し了りて今や其柱及び之を連貫する平物貫等立存し居るのみにて全く建物たる形状を存せず從て原告の本訴の目的物は既に消滅したるものなるを以て被告は之に應ず可き義務なし且原告は本訴の建物に付き竸落許可决定に因りて所有權を取得したりと主張するも其决定に對しては被告より異議の申立を爲し未だ確定に至らざれば原告は之に因りて所有權を得たりと云ふを得ず假りに之を取得したりとするも登記なき間は之を以て第三者たる被告に對抗することを得ざるを以て結局原告の請求は不當なりと陳述したり
(理由)要するに當事者間の爭點は第一被告か訴外粟津ヤスに對し本訴係爭家屋に付き爲したる強制執行は既に結了したるや否第二原告は不動産竸落許可决定に因りて直ちに係爭家屋に對する所有權を取得したる者なるや否第三若し之を取得したる者とすれば之を登記せざれば第三者たる被告に對抗することを得ざるや否に在りとす依て左に順次之を説明せん
第一、係爭家屋の大部分は強制執行に依り取毀たれ今は唯其柱及之を貫連する平物貫等のみ殘存しあるの事實は當事者雙方の代理人が互に之を是認する所なるのみならず強制執行の基本たる判决は係爭家屋の取拂を目的としたることも亦た爭なき事實なるを以て其強制執行たるや單に家屋の形状を毀壞消滅せしむるのみに止まらずして全然之を解き放ち其場所より取去りたるに非ざれば未た之を完了したりと云ふことを得ず從て當事者間に爭なき前記の状態は尚ほ執行未了の状態と認むるを相當とす依て被告代理人の第一抗辯を排斥す
第二、民事訴訟法第六百八十六條には竸落人は竸落を許す决定に因りて不動産の所有權を取得するものとすと規定せるのみならず此决定は原則として確定前直に執行力を有すること其同法第六百八十條第三項の規定に依り明白なりとす加之第六百九十四條第一項第二號の規定に依るときは其不動産が果實其他金錢に見積ることを得べき利益を生ずる場合に於ては竸落者は竸落决定言渡〓り代金支拂までの利息を賣却代金として支拂ふべき義務あるを以て其反面には則ち竸落者は竸落决定言渡より代金支拂迄の果實〓〓の利益を收得することを得べきことも亦當然なりと云はざる可からず此等の規定を斟酌して解釋するときは竸落者は竸落〓〓决定に因りて直ちに不動産に對する所有權を取得するものと看るを相當と云ふべく但抗告其他の理由に依り决定確定に至らざるときは其權利も亦解除せらるゝものとす從て原告は係爭家屋に對し所有權を有するものと云はざる可からず
第三、民法第百七十七條には不動産に關する物權の得喪及び變更は登記法の定むる所に從ひ其登記を爲すに非ざれば之を以て第三者に對抗することを得ずと規定しありて一見汎く一般の第三者を指すが如くなるも其主意は登記手續に依りて權利を取得したる者即ち第三取得者を謂ふに在るを以て本訴被告の如き係爭家屋に對し何等の物權を有せざる者は同條に所謂第三者たるに適せず從て被告代理人の第三抗辯も抗之を排斥す
以上の理由に依り原告が係爭家屋に對する所有權に基きたる本訴の請求を不當と認め民事訴訟法第五百四十九條第四項第五百四十八條第一項第二項及第七十二條第一項に依り主文の如く判决す(十月十一日判决言渡)