原告靜岡縣安陪郡清水町清水受新田百二十番地株式會社清水銀行取締役頭取法定代理人長坂彦次郎被告東京市麹町區有樂町二丁目三番地丸谷新八間の明治三十四年(ワ)第一二七九號當座貸越殘金請求事件に付き東京地方裁判所第三民事部裁判長嘉山幹一判事平佐榮太郎須賀喜三郎の三氏判决する左の如し
(主文)被告は金五千圓を原告に支拂ふべし、訴訟費用は被告の負擔とす
(事實)原告は被告は金五千圓を原告に支拂ふべし訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求むと申立て其陳述する事實の要旨は原告は被告に對し明治三十四年三月十五日の現在に於て三萬三千三百三十七圓の當座貸越金有之たる處内二萬八千三百三十七圓は擔保品の賣却代金を以て辯濟を受け殘金五千圓は被告に於て同年五月廿五日に金二千圓を差入るときは其餘を免除すべく若し同日までに入金せざるときは五千圓の請求を爲すべき約定を原被告間に取結びたり然るに被告は右期日入金せざるに依り本訴に及び可貸越金殘額五千圓を訴求する次第なりと云ふにありて立證として甲第一二號證を提出したり
被告は原告請求棄却の判决を求むと申立て其答辯の要旨は原告主張の如き借越金ありしことは爭なきも明治三十四年三月十五日被告は五千圓の約束手形を振出し借越殘額五千圓の債務を右手形債務に更改したるを以て前債務は消滅したるものなり然るに原告は右消滅に歸したる舊債務に基き本訴請求を爲すを以て不當なりと云ふに在りて甲第一、二號證の成立を認め之を援用したり
(理由)原告主張通りの當座借越金ありしことは被告の認むる所なり被告は右債務は後に手形債務に更改せられたるにより消滅したり抗辯するも抑も約束手形の振出は債務の要素を變更したるものにあらざるを以て債務の更改ありたりと云ふを得ず從て被告の抗辯は其理由なし然らば成立に爭なき甲第一號證の約旨に依り原告本訴の請求は相當とす依て訴訟費用に付き民事訴訟法第七十二條第一項に則り主文の如く判决したり(十月十九日判决言渡)