原告神奈川縣横濱市山下町百六十四番地英國法人有限責任バウデン、ブラザース會社會社專務取締役法定代理人ヴヰヴヰアン、アール、バウデンより被告東京市神田區南乘物町十二番地合資會社東和商會會社代表社員法定代理人鳥山貞行に係る明治三十四年(ワ)第一六〇號約束手形金支拂請求事件に付東京地方裁判所第二民事部裁判長和仁貞吉判事三宅徳業横田五郎の三氏は判决する左の如し
(主文)被告は原告に對し金一千四百九十一圓八十四錢及び之に對する明治三十三年十二月十一日より判决執行濟に至る迄年六分の利息并に金一千四十八圓三十二錢及び之に對する明治三十三年十二月十七日より判决執行濟に至る迄年六分の利息を支拂ふべし訴訟費用は被告の負擔とす
(事實)原告訴訟代理人岸清一氏一定の申立は主文記載の如き判决を求むと云に在りて其事實陳述の要旨は被告は明治卅三年十一月二十八日に於て同年十二月十日を以て支拂期日と定めたる額面金一千四百九十一圓八十四錢及び同年十二月十七日を以て支拂期日と定めたる額面金一千四十八圓三十二錢の二通の約束手形を訴外上月多家作に宛て振出し同人は同年十一月二十九日に於て之を東洋移民合資會社に裏書讓渡し原告は即日同會社より之が裏書讓渡を受けたり而して原告は右二通の手形中額面金一千四百九十一圓八十四錢の分は同年十二月六日株式會社第百銀行へ裏書讓渡を爲したる後同年同月十一日に於て更に同銀行より裏書讓渡を受け又額面金一千四十八圓三十二錢の分は株式會社第百銀行へ無記名裏書を爲し同年十二月二十日更に同銀行より裏書讓渡を受けたり而して右二通の手形に付きては各支拂期日に於て各所持人より被告に對し支拂を求めたるも被告は之に應ぜずと云ふに在り立證として甲第一、二號證を提出し又被告の抗辯に對しては凡そ自己に對する裏書は法律上何等の效力なきものなれば假令本件手形の裏書中自己に對し取立委任の爲めの裏書を爲せる者あればとて之が爲めに其權利に何等の消長を來たすべき理由なく又鶴田勝弘の肩書には副支配人とあるも所謂副支配人とは畢竟法律に所謂支配人の一種なれば其本人たる株式會社第百銀行を代表するに於て毫も缺くる所なしと陳述したり
被告訴訟代理人佐々木文一氏一定の申立は原告の請求を棄却す訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を求むと云ふに在り其事實陳述の要旨は原告主張の事實は認む但本件二通、手形には何れも第四の裏書として株式會社第百銀行横濱支店より其本店に宛てたる裏書あり其裏書は取立委任の爲めの裏書なるに拘らず本店は之を横濱支店に裏書讓渡し以後亦皆裏書讓渡を爲し居れり然れども第百銀行本店は單に取立委任の爲めに裏書を受けたるものにして裏書讓渡を爲すの權限を有せざるものなるが故に以後の裏書は皆取立委任の爲めの裏書と云はざるべからず從つて原告は本件手形の所持人に非ず又本件二通の手形には何れも第五の裏書として株式會社第百銀行副支配人鶴田勝弘と云へる者第百銀行を代表して裏書を爲し居れるも同人は同銀行を代表するの權限を有せざるものなれば其裏書は無效なり從つて原告は本件手形の所持人に非ずと云ふに在り甲各號證の成立を是認し且つ之を引て自己の立證に供したり
(理由)甲第一、第二號證に據れば本件二通の手形には何れも原告が請求原因として陳述したる裏書の外尚ほ第四、第五の裏書あり其第四の裏書は取立委任の爲めの裏書にして其第五の裏書は株式會社第百銀行副支配人鶴田勝弘の爲したるものなること被告主張の如し然れども此等の裏書は何れも株式會社第百銀行の本支店間に爲されたるもの即ち同一人間に爲されたる者なるが故に法律上何等の效果を生ずべきものにあらず何となれば手形の裏書なるものは法律上自己より自己に對して爲し得らるべきものに非ざればなり此の如く第四、第五の裏書は已に此點に於て無效なりとする以上は其取立委任の爲めの裏書なると否と又鶴田勝弘に代表權あると否とは之を問ふの要なし而して本件手形に於ては第三の裏書に於ける被裏書人と第六の裏書に於ける裏書人とは共に株式會社第百銀行なる法人にして即ち同一人なるが故に第四、第五の裏書が無效なるも之が爲めに裏書の連結の點に於て欠くる所なし
以上説明の理由に依り被告の抗辯は其當を得ず而して其他の裏書の事實振出の事實及び呈示の事實に至りては被告の爭はざる所なるが故に被告は原告に對し手形金額及滿期日以後の法定利息を支拂ふべき義務あるものと判定し原告の請求を相當と認め主文の如く判决せり