控訴人大坂市西區新町南通五丁目九十八番邸平民洋反物商柴田吉太郎訴訟代理人辯護士西尾哲夫氏より被控訴人同市南區南堀江通四丁目五番地平民大坂株式取引所仲買人高倉藤平訴訟代理人辯護士菅原喬氏に係る明治三十四年(ネ)第三八七號約束手形金請求爲替訴訟控訴事件に付き大坂控訴院休暇第二部裁判長板倉松太郎判事尾古初一郎大野金三郎前田認國吉亮之助の五氏は左の如く判决せり
(主文)原判决は之れを廢棄す、被控訴人は控訴人に對し被控訴人が明治三十四年一月二十二日に控訴人に宛て振出したる金一千圓の約束手形二葉と引換に金二千圓に明治三十四年二月二十一日より判决執行に至るまで年百分の六の利子を付し辯濟す可し、訴訟費用は第一二審共被控訴人の負擔とす、此判决は假りに執行することを得
(事實)控訴代理人は各主文の記載通の判决を受け度旨申立被控訴代理人は本件控訴を棄却せられ度旨申立てたり而して雙方の事實上の陳述は原判决書に掲示する所と同一なり
(理由)被控訴人の認むる甲第一二號約束手形二通を調査するに振出人高倉藤平の肩書に西區南堀江通四丁目五番地と記載あり右記載は手形に無要なる文字を掲げたるものとは解釋し得られず寧ろ約束手形に必要なる振出地を掲記したるものと解釋するは相當なるのみならず振出地を振出人の肩書に記載するは從來實地に行はれたる慣例なれば該記載は即ち振出地の記載なりとす而して被控訴人は右肩書に大坂市の文字なきを以て適法に振出地を記載したるものにあらず隨て該二通の約束手形は無效なりと主張するも西區南堀江通とあれば他に其地名なきを以て大坂市なること一見明瞭なれば右肩書は大坂市の文字なきも大坂市を顯はせるものにして適法に振出地を記載せるものなり既に前顯約束手形は適法振出地の記載ありとすれは商法第五百二十五條第七號の要件を充たし居り有效たるは論を俟たず故に被控訴人は該二通の約束手形額面金額に支拂滿期後裁判執行に至まで商法第二百七十六條の法定利息を付し控訴人に辯濟するの義務あるものとす然るに第一審に於て右約束手形を無效とし控訴人の訴を却下したるは失當の判决にして本件控訴は理由あり因て主文の如く判决するものなり(九月六日判决)