約束手形金請求爲替訴訟事件 其四(通常訴訟控訴)
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法律新聞(新聞)49号10頁


控訴人木村金次郎より被控訴人長尾ハナ法定代理人長谷川房次郎に係る約束手形金請求事件に付名古屋地方裁判所の判决に對する控訴〓付名古屋控訴院民事部裁判長牛山松藏判事藤田菊江多羅尾篤吉眞鍋十藏荒井操の五氏は檢事龜山直秀氏裁判所書記杉山長孝氏立會の上判决すること左の如し
(主文)第一審判决を廢棄す、被控訴人が第一審に提出したる期日指定の申請を却下す、本件第一審第二審の訴訟費用は被控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は第一審判决の全部を廢棄し被控訴人は金千二百圓を控訴人に支拂ふべしとの判决を求むとの申立を爲し被控訴人は本件控訴を棄却すとの判决を求むとの申立を爲したり
(理由)當院は職權調査の必要を認め訴訟記録を審閲するに本件は明治三十二年二月二日爲替訴訟として名古屋地方裁判所に提起し同年二月二十四日同裁判所は被告(被控訴人)敗訴の判决を爲したり然るに該訴訟に於て被告(被控訴人)は原告(控訴人)の請求を爭ひたるに係はらず權利留保の判决を爲さず又被告(被控訴人)は此點に付補充判决の申立を爲さゞりしを以て該訴訟は通常の訴訟手續に於て第一審裁判所に繋屬せざりしものなり被告(被控訴人)は右判决に對し控訴を爲し明治三十二年五月二十七日名古屋控訴院に於て被告(被控訴人)敗訴の判决を受けたるに當り被告(被控訴人)は同判决により初めて通常訴訟に於て請求を爭ふ權利を留保せられたり而して右判决に於て事件を第一審裁判所に差戻さゞりしにより見れば本件は通常の訴訟手續に於て第二審即ち名古屋控訴院に繋屬せるものとす然れば被控訴人が事件の繋屬せざる第一審裁判所に對し期日指定の申請を爲したるは失當なれば之を却下すべきものなるに反て其申請に基き口頭辯論の上云渡したる第一審判决は即ち繋屬せざる事件に對し爲したるものなれば其當を得たるものにあらず而し上文の瑕瑾は職權を以て調査すべきものとす』右の理由なるを以て第一審判决を廢棄し被控訴人の期日指定の申請を却下すべきものとし主文の如く判决したり