控訴人東京市淺草區向柳原町一丁目十六番地永田秀則訴訟代理人山中兵吉氏より被控訴人東京市深川區富岡門前仲町四十七番地差配人小川吉左衛門請訟代理人平塚有徳岡梅吉の二氏に係る明治三十一年(子)第二二二號地所明渡貸地料請求控訴事件に付東京控訴院民事第二部裁判長小山温判事齋藤十一郎高橋覺折原吉之助藤波元雄の五氏は裁判所書記高橋一郎氏立會の上判决すること左の如し
(主文)明治三十一年十一月十八日言渡の欠席判决を維持す欠席判决以後の訴訟費用は控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は本件控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とすとの欠席判决に對し故障申立を爲したり
控訴人は第一審判决を廢棄し被控訴人の請求を棄却し訴訟費用は第一審第二審共被控訴人の負擔たるべき旨判决相成度と申立て被控訴人は控訴を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔たるべしと判决相成度と申立てたり控訴人は明治二十一年以來本訴地上に地上權を有し建物を所有するが爲めに土地を使用せりと陳述し被控訴人は控訴人の土地を使用し來れるは土地を賃貸したるが爲めにして地上權を設定したるが爲めに非ずと陳述せり
(理由)凡そ土地の差配人は土地に關し管理行爲のみを爲し得るを以て通常とし其以外の行爲を爲すには特別に授權せらるゝを要す故に土地の上に物權を設定するが如きは特に授權せられざる限りは差配人の爲し得ざる所たり本訴に於て被控訴人は本訴土地の所有者たる藤田昆直の差配人たるに過ぎずして控訴人の本訴借地關係は被控訴人と取結ばれたることは控訴人の爭はざる所なり而して被控訴人の地上權設定の特別授權ありしことは一も立證せられざるを以て本訴借地關係は被控訴人が其權限内の行爲に因て取り結ばれたるもの即ち賃貸借にして明治三十三年法律第七十二號第一條を適用す可きに非ずと認む控訴人は借地料は支拂濟なりと主張すれども控訴人の申立に因て取寄せたる刑事記録に依ては本訴土地の借料が被控訴人より藤田昆直に支拂はれたることを認め得るに過ぎずして而かも其借地料は控訴人の借地料と其額を異にせり故に借地料は被控訴人主張の如く明治二十七年以來延滯せるものと認む左れば被控訴人が土地の明渡竝に借地料の辨濟を請求するは正當にして控訴は其理由なしとて主文の如く判决したり