上告人兵庫縣神戸市川崎町十番邸田中利左衛門訴訟代理人辯護士岡崎正也高橋捨六田井與之助の三氏より被上告人兵庫縣神戸市元居留地播磨町五十四番地サミユルサミユル商會代表者ヱフ、シヱー、バーテンス訴訟代理人辯護士砂川雄峻氏に係る米賣買契約違反損害賠償請求事件に付き大坂控訴院が明治三十三年十二月二十四日言渡したる判决に對し上告代理人より全部破毀を求むる申立を爲し被上告代理人は上告棄却の申立を爲したり大審院第二民事部裁判長寺島直判事西川鐵次郎岡村爲藏今村信行柳田直平芹澤政温掛下重次郎の七氏は裁判所書記村井幸次郎氏立會の上判决すること左の如し
(主文)原判决を破毀し第一審判决を廢棄し本件の訴を却下す、訴訟費用は總て被上告人の負擔とす
(理由)上告理由第一點は原判决中當事者の表示を見るに控訴人サミユルサミユル商會右代表者英國臣民ヱフ、ジヱーバーデンスとあり控訴状にも同樣の記載あり然らば訴訟當事者たるサミユルサミユル商會は外國法人として訴訟能力を有するか又ヱフ、ジヱーバーデンスは果して代表資格を有するか一件記録を査閲するに被上告人の人格及び其代表資格を證明するものなし外國會社は商法第二百五十五條の手續を經ざれば法人及び其代表の資格を取得すべきものにあらず而して此問題は民事訴訟法第四十五條に依り職權を以て調査せらるべきものに屬し又訴訟の如何なる程度にあるを問はず相手方の主張し得べきものなり然るに原判决は何等の證明を徴せずして輙く被上告人の人格及び其代表資格を認めたるは法律を無視したる違法の判决なりと云ふに在り
被上告人の訴訟行爲を爲す可き資格の有無は職權を以て調査すべき事項に屬するを以て之を調査するに被上告代理人より提出したる神戸區裁判所の支配人登記謄本に據ればサミユール、サミユル、ヱンド、コンパニー、なる名稱は一箇人たる英國人ウ井リアム、フート、ミツチヱル、の支配人フレデリツク、ジヨンバーデンスの使用する商號にして商號登記簿謄本に據れば右と同一なるサミユール、サミユール、ヱンド、コンパニーなる名稱を英國人サー、マーカス、サミユール同國人サミユール、サミユール、同國人ウ井リアム、フート、ミツチヱルの組合營業上使用の商號として登記しあり然るに右商號登記簿にミツチヱル外二名組合營業の商號の如く登記したるは事實に反しサミユール、サミユール、ヱンド、コンパニーなる名稱はミツチヱル一名の專用に係る商號にして本件はミツチヱル一名の提起したる訴訟なる旨被上告代理人の當法廷に於ける申立あり果して然らば本件の訴訟は不適法として却下せざるを得ざるものなり何となれば一箇人の商號は民事訴訟法第百九十條の規定に依り當事者を表示すべき名稱と爲すを得ざるものなるに被上告人ミツチヱルの代理人が本人の氏名を用ひず商號と代理人の氏名のみを訴状に掲載したるは不適法なればなり然るに原裁判所が本件の訴を却下せず第一審裁判所も民事訴訟法第百九十二條の規定により欠缺の補正を命ぜずして本案を審判したるは職權調査を欠き不適法の訴訟を受理したる違法を免かれざるを以て原判决は之を破毀し第一審判决は之を廢棄し本院に於て直ちに訴を却下すべきものとすとて主文の如く判决したり(七月廿八日判决言渡)