小切手金請求事件
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法律新聞(新聞)41号9頁


原告長野縣南安曇郡明盛村北野今朝吉より被告同上多田多家司訴訟代理人黒田穰氏に係る明治三十四年(ハ)第一五一號小切手金請求事件に付き松本區裁判所判事大平錠三郎氏は判决すること左の如し
(主文)原告の請求を棄却す、訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告一定の申立は被告は原告に金二十圓を支拂ふべし訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求むと云ふに在りて其請求の原因は原告は明治三十四年一月二十日付を以て豫て被告に供給し置きたる米代金として被告より南安曇郡明盛村株式會社明盛銀行拂渡の金二十圓小切手を受取りたり原告は直ちに同銀行に至り其拂渡を求めたるに支拂を拒絶したるに付其旨被告に告げ以て該金圓を請求せしも被告は言を左右に托して應ぜず依て本訴に及びたり其事實は甲第一號證を以て立證とす申立たり
被告代理人答辯の要旨は原告の請求棄却の判决を受度其事由は原告の請求する金二十圓の小切手は被告に於て振出したるに相違なきも原告は商法の規定に依り其日附より一週間内に其小切手を呈示し支拂を求め其支拂を拒みたる時は拒絶證書を作成するか又は之に代はる可き手續を爲したる上被告に對し償還を請求す可きものなるに原告は更に之れ等の手續を履行せずして漫然被告に請求するも原告は小切手の權利を失ふものなるに付本訴の請求に應ずるの義務なしと云ふに在り
(理由)依て案ずるに本訴小切手の金額は支拂人たる株式會社明盛銀行に於て其支拂を拒みたることは原告の陳述する處に依り明なりとす果して然らば原告は商法第五百三十四條の規定に從ひ拒證書を作成するか若くは之に代はる可き手續を爲すにあらざれば振出人たる被告に對し償還を請求すること能はず然るに原告は之れ等の手續を爲さゞることは其申立に徴し明かにして從て甲第一號證は小切手たる權利を失ふたるものなること明白なりとす依て本訴小切手金の請求は其當を得ざるものとし被告の抗辯を採用し主文の如く判决せり