契約履行請求事件
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法律新聞(新聞)40号13頁


原告東京市京橋區松屋町一丁目六番地高橋俊太より被告同市同區同町二丁目五番地石井留吉に係る明治三十四年(ワ)第五四二號契約履行請求事件に付き東京地方裁判所第二民事部裁判長和仁貞吉判事安田繁太郎横田五郎の三氏は判决すると左の如し
(主文)原告の新訴は之を却下す、新訴に關する訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告代理人熊倉操氏は被告は大藏省造幣支局長に對し有する所の造幣局廳舍物置渡廊下周圍板塀及下水新築工事受負殘金二千百十九圓六十六錢五厘同支局廳舍外四廉工事受負模樣替工事受負金六十七圓八十六錢五厘の債權讓渡の手續を爲す可しとの判决あり度と申立其請求原因として先きに被告が大藏省造幣支局土木工事の請負契約を同支局長神野勝之助と結びたる時原告は被告と被告が該請負工事に依り取得したる債權は原告へ讓受くることを要件とし原告より該工事に要する金錢材料を被告に支給する契約を爲し而して原告に於て木材金錢の給付を爲したるも被告は大藏省造幣支局より取得したる前顯債權の讓渡を爲さゞるを以て本訴請求を爲す次第なりと陳述し且被告は本訴は原告の申立に變更ある旨申立つると雖も原因に變更なしと演述したり
被告代理人印東胤一氏は原告は被告より大藏省造幣支局に對する土木工事請負に關する前記債權取立を原告へ委任する旨の契約を原因とし該委任の意思表示を求め今や更に被告より原告へ該債權讓渡契約の存在を原因とし債權讓渡手續の履行を求むるものなれば訴の原因を變更したるものなり此訴の原因變更に付ては異議ある旨陳述したり
(理由)權訴請求原因に變更あるや否やの點に付調査するに原告は始め被告より大藏省造幣支局に對する債權の取立を原告へ委任する旨の契約存在を原因とし該委任の意思表示を求めたることは原告の訴状全文及び公廷に於ける其代理人の之と同一趣旨の陳述に依り明白なり然るに原告代理人は辯論中更に被告の大藏省造幣支局に對する債權を原告へ讓渡す旨の特約存在を原因とし債權讓渡手續の履行を求むることに變更したるを以て訴の原因に變更ありと云はさるを得ず訴の原因の變更は被告の異議を述ぶる所あるを以て原告は訴を變更することを得ず而して變更したる原因に基く新訴は訴提起の要件を具備せざるを以て不適法とし主文の如く判决したり(五月廿五日判决言渡)