原告東京市本郷區眞砂町七番地大塚龍太より被告同市神田區三河町二丁目九番地宮崎善吉に係る明治三十四年(ワ)第一〇八二號約束手形金償還請求事件に付き東京地方裁判所第三民事部裁判長嘉山幹一判事關口環平佐榮太郎の三氏は判决ずること左の如し
(主文)原告の請求を棄却す訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)原告代理人は被告は原告に對し金一千八百圓及之に對する明治三十三年十一月廿一日より支拂濟に至る迄年六朱の利子を付し支拂ふべし訴訟費用は被告の負擔とすとの判决を求むと申立て其陳述する事實の要旨は原告は訴外細川時太郎が明治三十三年八月廿日被告に對し振出したる額面金一千八百圓支拂期日同年十一月廿日の約束手形を同年八月二十一日被告より裏書讓渡を受けたるを以て右支拂期日に該手形を振出人細川時太郎に呈示し支拂を求めたるも支拂を得ず依て其翌二十一日執達吏福鎌隆彦に托し拒絶證書を作成せしめ其翌二十二日被告に對し支拂拒絶證書を作成したるに付き手形金償還相成度旨を通知したりと云ふに在りて立證として甲第一號乃至三號證を提出せり尚原告は執行前保證を立つべきに付き假執行の宣言を得たしと申立てたり
被告代理人は原告の申立を棄却し尚其假執行の申立を却下せられたしと申立て其答辯の要旨は訴外細川時太郎が被告に宛て原告陳述の如き金千八百圓の約末手形を振出し被告は同人の依頼に依り該手形の裏面に署名したることあるも之を原告に裏書讓渡したることなく又原告より該手形に付き償還の請求を受けたることなし且又約束手形は振出地の記載を欠く無效の手形なる故に旁原告の本訴請求は不當なりと云ふに在り
(理由)案ずるに商法に所謂振出地支拂地の地は東京と云ひ大坂と云へるが如き一定の經濟的地域を指示するものにして其地域内に於ける區町番地の如き域内の小區圖若くは地點を謂ふものにあらず是れ商法第四百五十四條に於て用語上に於て判然地と場所とを區別し一は地域を示し一は地點若くは之に類するものを示したるを知るに足るべきものなる事同第四百五十三條第四百九十一條の趣旨より推して以上の論定を下すことを得べし本件係爭の約束手形を檢するに該手形は振出人の届書に神田區旅篭町一丁目二十三番地の記載を見るに止まり前段に示せる振出地の記載あるなし是れ商法第五百二十五條に規定せる約束手形の要件を欠缺せるものにして無效なる手形なりと謂はざるを得ず或は右手形面に記載しある神田區は東京市内に在る區なること分明にして該手形は東京を以て其振出地となしたること〓易に推知し得べきが如きも手形の性質上券面に明記なき事項は推測して之れが效力を保たしむることを得ず然れば本件約束手形は其要件たる振出地の記載を欠き全然無效なる手形にして之に基づく原告の本訴請求は不當なりとす既に此點に於て原告請求の當否を判斷するに足るを以て他の攻撃防禦方法に付ては遂一説明せずとて〓文の如く判决せり(六月六日判决言渡)