控訴人長野縣東筑摩郡和田村赤羽ミナ訴訟代理人辯護士島〓伊與治氏より被控訴人東京市太郷區根津西須賀町二番地黒須秀次郎訴訟代理人辯護士龝山賢三郎市に係る利得金償還請求控訴〓件に付き東京控訴院民事第一部裁判長田代律雄判事鈴木喜三郎平島及平平野正富相原祐彌の五氏は裁判所書記小川彪氏立會の上判决すると左の如し
(主文)本件控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は明治三十三年十月八日東京地方裁判所の言渡したる第一審判决に對し原判决の全部を廢棄し更に被控訴人は控訴人に對し金一百九十圓に内金九十五圓に付ては明治廿九年九月三十一日より金九十五圓に付ては同年十二月三十一日より共に年五分の割合を以て利子を加算し辯濟すへし訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負擔とすとの判决あり度と申立て被控訴人は控訴人の控訴は棄却す訴訟費用は第一審第一審共控訴人の負擔たる可しとの判决ある度と申立てたり被控訴人は本件の手形は振出したるに相違なく又控訴人の正當所持人なることは之を認める〓右手形は從來負ひたる債務に對し若しくは資金を受取りて振出したるにあらすして他人の依頼に依り其融通の爲め振出したるものなれは手形を振出したる爲め特に利得したることなしと陳述したり
(理由)控訴人の提出したる甲第一二號證なる約速手形二通は被控訴人に於て之を振出したることを認めたり然れとも約束手形は他人の融通の爲め慮引する目的を以て振出すことありて必ずしも有償的にのみ振出すものにあらさるを以て手形を振出したる一事のみを以て直ちに振出人か手形に因り自巳に利得したるものの推定するを得す又有償にて振出したる場合と雖必ずしも常に手形額面の金額を利得するものにあらさるを以て手形を振出したる一事のみに依りては振出人の受益の限度を定むるを能は〓要するに甲第一二號證のみに依りては被控訴人か手形振出に依り利得したりとの事實を認むる能はさるを以て控訴人の請求は不當なりと爲ささる得す結局控訴〓理由なきに付棄却すへきものと評决したり