控訴人栃木縣下都賀郡岩舟村大字鷲巣五十畑茂助訴訟代理人川田敬三郎氏より被控訴人同縣同郡同村大字鷲巣代表者岩舟村長島田源四郎訴訟代理人榊原經武氏に對する明治卅三年(子)第百八十五號地所々有名義書換請求控訴事件に付東京控訴院民事第三部裁判長横田秀雄判事中山勝之助平野正富
松岡義正 崎恆三郎の五氏は裁判所書記小坂善三氏立會の上左の判决を言渡したり
(主文)本件控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とす
(事實)控訴人は第一判决の全部を廢棄し被控訴人の請求を棄却すとの判决ありたしと申立て被控訴人は控訴棄却の判决ありたしと申立てたり
(理由)町村内の大字が特別の財産を有する場合には其大字を以て法人と見做すべきは町村制第百十五條の解釋上疑なき所なれば本件被控訴人たる大字鷲巣が當初より當事者たる能力を有せしこと明瞭なり而して其意思表示の機關たる區會の設なく從て區會の議决あらざるに岩舟村長嶋田源四郎に於て其代表者として本訴を提起したるは代表の資格に欠缺あるものなるも當審に於て更らに區會の决議を以て右源四郎が被控訴大字の代表者として爲したる第一審以來の訴訟行爲を認めたるに付右欠缺は完全に補正せられたるものとす進んで本案請求の當否を案ずるに第一審に於ける證人高橋清次郎の證言に依れば第一審の訴状送達状にある受取人の氏名は控訴人の自署したるものなること明なるを以て右筆蹟と控訴人の否認せる甲四、五號證の筆蹟とを對照審査するに全然同筆と認むるを以て甲四、五號證は何れも控訴人の自筆にして眞正に成立したる者と判定す而て甲四號證に『靜和村大字五十畑地内田若干歩是迄拙者の名義に有之候處該地は元來拙者の名義にこそあり是元より拙者の專有に無之其實當字一同の共有に有之云々』と記載しあるを見れば本訴の他所は控訴人所有名義なるも其實被控訴大字の所有なること毫も疑なく現に被控訴大字に於て甲一、二號證を占有し居る事實に參照すれば大字鷲巣に於て該地所を買受けたるものなること明瞭にして隨て其代金も亦大字より支出したるものと認めざるべからず然るに控訴人は甲四號證中共有云々とあるに依據し假に自己の所有にあらずとするも大字人民の共有にして法人たる大字の所有にあらずと辯ずれども右は民法上所謂共有の意義を示したるにあらずして世俗的に大字所有の意義を示したるものなることは『大字一同の所有』なる文詞自体に同證が人民總代宛にあり居る點に徴し之を認め得べきに付控訴人の抗辯は之を採用するを得ず要するに控訴人は被控訴人の請求に應ずべき義ある者にして控訴は其理由なしとて主文の如く判决せり(三月七日判决言渡)