印紙税法違犯上告事件
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法律新聞(新聞)26号9頁


「勿懿罰金一千萬圓」と題し本紙は〓に第十五號を以て貨物通知書小荷物切手に印紙脱漏の事を警告する所ありしが今茲に掲ぐる判决は正しく其當時に於ける東京區裁判所檢事控訴の當否を解决するに與つて力あるものにして其利害の關係する所に尠少にあらざる也讀者宜しく細心留意して讀むべし
被告靜岡縣庵原郡富士川村中の郷三百廿五番地運送業花田丈助に對する印紙税税法違反被告事件に付明治三十四年一月廿一日靜岡地方裁判所に於て靜岡區裁判所の判决に對する檢事の控訴を審理し第一審判决を取消す被告丈助を科料金四十錢に處す押收の書面二通は各差出人に還付すとの判决を爲したるに被告は之に服せず上告申立をなしたるにより東京控訴院刑事第一部裁判長達藤忠次判事小林義夫望月源次郎牧野菊之助竹井泰治の五氏は檢事江村忠之助氏裁判所書記岩佐松太郎氏立會の上本件上告は棄却すとの判决を言渡せり
(理由)上告の趣旨は印紙税法に所謂送状なるものは其性質及用法の如何なるものなるやは同法中に之を示されざるを以て同法以外に之を法律に考へ習慣に徴して之を定むるの外なし商法第三百三十二條に運送状に關する規定あり荷送人が運送人に對して交附し荷物に添付して荷受人に送致するもの即ち是れ運送状にして印紙税法に所謂送状なるもの之に外ならず本件上告人が發行したる書付は荷送人鈴木與平より荷受人山口健藏へ宛てたる荷物を運送の途中に於て上告人店より次の運送店富士川運諭會社へ中繼運送したる荷物に添付したるものなることは原審の認められたる處にして如斯書付は送状以外手板若くは案内状と稱し中繼運送店より中繼運送店へ對し發行するの商習慣れることは證人の證言に依り之を確め且該荷物には商法第三百三十二條規定の運送状を添付せられあること及該運送状に相當の印紙を貼用したることは上告人の提出したる反證に依て明瞭なり果して然らば本件の如き已に印紙税法により運送貨物に付き荷送人より發行したる運送状に對し印紙の貼用を爲したるものなれば再び同一貨物に對する書付に印紙の貼用を強制する如きは印紙法の精神に悖戻するものなり要之原審は中繼運送店より中繼運送店に對し運送貨物の案内に用ゐたる書付を以て商法規定の運送状と誤判し印紙税法違反に問疑せられたるは法則を不當に適用したる誤謬あるものなりと云ふに在り
因て案ずるに我商法は物品の運送に關して荷送人が運送人の請求によりて發行する所のものを名けて運送状と云ひ特種の名稱を下したるも印紙税法に所謂送状に相當するものなれば原裁判所が同法を適用し處斷位たるは相當にして上告は其理由なしと云ふに在り(三月九日判再言渡)