恐喝取財上告事件
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法律新聞(新聞)24号8頁


被告京都市下京區三條通油小路東入平民高山元三郎同市同區富小路通松原下ル平民住井音五郎に對する恐喝取財被告事件に付明治三十三年十二月二十五日大阪控訴院に於て控訴棄却を言渡したる判决に對し被告人等より上告を爲したり因て大審院第二刑事部裁判長長谷川喬判事岩田武儀木下哲三郎津村董伊藤悌治鶴丈一郎鶴〓守義の七氏は檢事小宮三保松氏裁判所書記川邊記和藏氏立會の上原判决を破毀し本件を名古屋控訴院に移送すとの判决を言渡せり
(理由)辯護人高木益太郎の辯明書は明治三十三年十二月二十日開廷の原院公判始末書を見るに被告高山元三郎辯護人阿部直秀吉田佐吉の兩名被告住井音五郎辯護人武内作平の出廷したる事跡なし依て本件記録を調査するに辯護人阿部直秀吉田佐吉に對する公判期日開廷の通知状は同人に送達せられずして其假住所の主人へ送達したるに過きず然れども假住所の主人は送達を受くべき本人に代りて送達を受くる資格なきは勿論なるを以て之を有效の送達ありたるものと認むるを得ず又住井音五郎の辯護人武内作平に對する通知状には「裁判所書記川島利太郎」とあれども其氏名は印刷に係りて同人の自署したるものにあらず而して官吏の作るべき書類は必ず自署することを要するを以て是亦有效の記載と認むるを得ず果して然らば此通知状は之を作成したる人の何人たることを確認する能はざるに依り適式のものと見做し難し是故に原裁判所は辯護人に對し適式の呼出状を送達せず又其辯護人の出廷なきに輙く公判を開き結審を告げたる不法あるものにして乃ち刑事訴訟法第二百五十七條に違背したるものなりと云ふに在り依て訴訟記録を査閲するに被告元三郎の辯護人阿部直秀同吉田佐吉に對する明治三十三年十二月廿日開廷通知状は何れも假住所の宿主に送達しありて兩辯護人が同日に出廷せざりしことは公判始末書に依り明かなり而して書類の送達に付ては刑事訴訟法に別段の規定なきを以て同法第十九條に依り民事訴訟法の規定に從はざるべからず然るに民事訴訟法には同居の親族又は雇人等送達を受くべき人の規定ありて假住所の主人に送達を爲すことを得るの規定なければ本件の送達は適法に爲したるものと云ふを得ず既に適法の送達なく從て其送達を受くべき辯護人の出廷なきに公判を開き審理したるは失當なりとす又刑事訴訟法第廿條に官吏の作るべき書類は署名すべしとあるは其書類の眞正を保する爲め作成者自から其名を筆記すべきことを命じたるものなるに訴訟記録を査するに辯護人武内作平に對する明治三十三年十二月廿日開廷の通知状には之を作成する裁判所書記の氏名は印刷したるものにして作成者の自ら筆記したるものにあらず然らば刑事訴訟法第廿條の規定に背き其書類の效なく從て開廷の通知なきものに歸せざるを得ず然るに原院公判始末書に依れば同辯護人の出廷なく公判を審理したること明にして違法を免かれざるものとす既に以上の點に於て原判决を破毀する以上は他の論旨に對し説明するの要なし(本年二月十九日判决言渡)