立替金請求事件
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法律新聞(新聞)24号7頁


原告東京市四ツ谷區大番町三十六番地立川清十郎より被告東京市日本橋區橘町一丁目五番地三角豐吉に係る明治三十三年(ワ)第一一〇七號立替金請求事件に付東京地方裁判所第一民事部裁判長岩田一郎判事島田鐵吉水原親次の三氏は判决るる事左の如し
(主文)原告の請求を棄却す訴訟費用は原告の負擔とす
(事實)明治三十四年二月十三日午前九時の口頭辯論期日に被告は出頭せず原告は出頭し闕席判决を以て被告は原告に金百五十圓を支拂ふべし訴訟費用は被告の負擔とすとの言渡ありたしと申立て其供述したる事實の要旨は明治三十三年五月二十八日被告は岩城萬次郎へ宛て金額百五十圓滿期日同年七月十日支拂の場所株式會社第百銀行通旅篭町支店なる約束手形一通を振出し同年五月廿九日岩城萬次郎より之を原告に裏書讓渡し同日市瀬國太郎に之を裏書讓渡し同日市瀬國太郎は之を株式會社麹町銀行四ツ谷支店に裏書讓渡し同年七月五日右四谷支店は其本店なる株式會社麹町銀行へ手形金の取立委托を爲し株式會社麹町銀行は更に株式會社帝國商業銀行へ該手形金の取立委托を爲しつり然るに滿期日に手形所持人たる株式會社麹町銀行は手形を呈示して支拂を求むる爲め支拂の場所に到りたるも振出人不在なりしに付き同日更に振出人の住所に到り手形を呈示して支拂を求めたるも振出人は支拂を拒絶したりき依て株式會社麹町銀行は同日市瀬國太郎に對し償還請求の通知を爲し市瀬國太郎は手形金を償還したり而して原告は市瀬國太郎より償還請求の通知を受けたることなく又手形上の自己の債務の履行としてにあらずして其原告が立替へ支拂を爲したるにより被告は手形上の債務を免れたるを以て不當利得を原因として本訴請求に及び本件の手形に關しては支拂拒絶證書の作成なしと謂ふにあり
(理由)原告の事實上の口頭供述は總て眞實なりと假定するも所持人たる株式會社麹町銀行は支拂拒絶證書を作成せしめずして裏書人たる市瀬國太郎に其償還請求の通知を爲したるものなるが故に國太郎は其償還請求に應ず可き義務なしと爲さゞる可からず然れば國太郎は手形金の償還として辯濟を爲したりとするも既に償還請求に應ずべき義務を負はざる以上は同人は之れに因りて振出人たる被告に對する手形上の權利を取得するに由なき國太郎が被告に對する手形上の權利を取得せざる限りは原告が國太郎に對し被告の爲にする意思を以て支拂を爲したりとするも被告は之に因りて免る可き手形上の債務なく結局被告は原告に於て辯濟を爲したるが爲に不當の利得を得たりと爲すこと能はず因て原告の請求は理由なしとて主文の判决をなしたり(本年二月十五日判决渡言)