原告栃木縣下都賀郡瑞穗村大字皆川大塚佐市訴訟代理人辯護士岡馨三氏より被告同縣同郡吹上村大字千塚尾川新藏同上大字木野地飯塚源太郎訴訟代理人辯護士榊原經武氏に係る明治三十三年(カ)第三三號約束手形金請求事件に付宇都宮地方裁判所栃木支部裁判長住谷毅判事佐々木軌三竹村昌計の三氏は裁判所書記川堀久米氏立會の上左の判决を爲せり
(主文)被告兩名は連帶にて原告に金三百圓を支拂ふ可し訴訟費用は被告兩名の連帶負擔とす此判决は假りに執行することを得但し被告の爲めに權利の行使を留保す
(事實)原告に於て被告連帶して金三百圓を支拂ふべしとの判决を受けたしと申立て其主張は被告兩名は連帶にて明治三十三年八月三日を以て訴外人大橋右内に宛て振出せし同年十一月三日支拂期日の金百五十圓の約束手形二通を同年九月十九日右内より裏書を以て原告に讓受けたり依て之れが支拂を求むるも應ぜざるに付き本訴を爲替訴訟として提起したりと云ふに在りて甲第一、二號證を提出せり被告は原告の請求棄却を申立て其抗辯は本訴二通の約束手形は之を振出したるに相違なきも第一同手形によれば各被告の住所を異にし何れか振出地なるや判明せざるに付き特に振出地の記載をなすべきに之れが記載なきを以て手形要件を缺きたる無效の手形なり第二右二通の手形は被告新藏に於て原告より支拂呈示を受けたることなし從て本訴の請求に應ずること能はずと云ふに在りて甲第一、二號證を援用せり
(理由)甲第一、二號證は被告が承認するをもつて本訴債權の存在を適法且つ完全に證明する約束手形なりとす然るに被告兩名は前掲の如く辯論するを以て同號證を調ふるに被告新藏の住所は不都賀郡吹上村大字千塚廿四番地とあり被告源太郎の住所は同郡同村大字木野地五十番地とあるを見ると雖ども之と同時に被告兩名が同一區域即ち吹上村に住居するものなること明瞭なれば商法第五百廿五條に所謂振出地の記載あるものと云はざるべからず左れば前掲の如く被告等が大字番地を異にすればとて手形の效力に何等の效力を及ぼさゞるものとす被告兩名が商行爲たる手形債務を負擔するものなれば其間連帶にして原告ご右各號證を被告源太郎に呈示し之れが支拂を求めたることは被告新藏に於ても認むる所なるを以て該手形の請求も被告新藏に對して又效力あるものと云はざるべからず以上の理由により被告の各抗辯は到底之を採用することを得ずとて主文の如く判决せり(本年二月七日判决言渡)