頼母子講掛金取戻請求控訴事件
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法律新聞(新聞)20号6頁


控訴人東京府豐多摩郡中野町字中町四千五十一番地石田彌作外十五名訴訟代理人辯護士富塚玖馬氏より被控訴人東京市芝區高輪北町五十三番地牧野如石外二名訴訟代理人辯護士天野敬一氏に係る明治三十三年(子)第四七四號頼母子講掛金取戻請求控訴事件に付き東京控訴院民事第一事裁判長田代律雄判事鈴木喜三郎平島及平平野正富相原祐彌の五氏は裁判所書記小川彪氏立會の上判决すること左の如し
(主文)第一審判决を左の如く變更す、被控訴人は控訴人石田彌作外十名へ金三十三圓宛を其他控訴人へ……を辯濟すへし訴訟費用は第一審第二審分共總て被控訴人に於て之を負擔すへし
(事實)控訴代理人は前掲主文と同一の判决ありたしと申立て被控訴代理人は本件控訴は之を棄却す訴訟費用は控訴人の負擔とすとの判决ありたしと申立てたり尚控訴代理人は被控訴人か明治三十二年四月休會したる際直に相當の期間を定めて契約の履行を催告し然る後契約解除の手續を爲したる次第なりと陳述したり
(理由)被控訴人か會主又は世話人と爲り行正講及ひ確行講と稱する頼母子講を組織したること控訴人等か其講員と爲り講組織の月より毎月一定の掛金を爲し來りたること其掛金總額及び控訴人見方源六關口長助見方フサが講則に依り借受けたる金額の控訴人陳述の如くなることは當事者爭なき事實なり而して本件に於て第一に判斷すへき爭點は右頼母子講は一種の組合なりや否や隨て控訴人か會主世話人のみを相手取り本上の請求に及ひたるは相當なりや否やにありとす依て案するに成立に爭なき甲第一號證の講則に依れは右頼母子講の會主及世話人は講員に對し毎月定日に講會を開き各講員より掛金を取集め抽籤を以て講員中一定の金額を受くへきものを定め當籤者に右金額を交付すへき義務を負ひ講員は會主世話人に對し毎月一定の掛金を爲すの義務を負ひたるものと認むるに足る但當籤したる講院は相當の擔保を提供するときは當籤金全額を受取ることを得るも之を提供する能はさるときは當籤金の幾分を會主世話人に預け之を以て將來の掛金に充當する取極なるか故に講員は當籤の有無に拘らす毎月掛金を爲す極務あるものとす斯の如く右頼母子講は會主世話人一体と爲り講員各自と締結したる雙務契約なることは之を認むるを得るも講員相互間に何等權利義務の關係を惹起すへき契約の存在を認むへき證憑なきを以て右頼母子講は一種の組合なりとの被控訴人の主張は失當なり隨て本件に於て控訴人等が契約の當事者たる會主世話人のみを相手取りたるは相當なりとす
第二に判斷すへき爭點は右契約は有效に解除せられたるや否やにあり案するに證人吉見峯吉の證言に依れは峰吉は被控訴人等か明治三十二年四月休會したる際控訴人等の依頼に因り被控訴人等に對し休會の理由を質問し且次の會よりは必す開會すへきことを催告したる事實あることを認むるに足る然るに被控訴人等か其催告に從はす開會の手續を爲さゝりしことは同月以降四囘休會したりとの被控訴人の自認に徴し明白なり而して同年十一月廿四日控訴人等か被控訴人等に對し契約解除の意思を表示したる事實は被控訴人の認むる所なれは右契約は既に適法に解除せられたるものと認む隨て被控訴人に於て控訴人等より受領したる掛金は賃金ある口に付ては之れを差引きたる上之れを返戻すへき義務あるは論を竢たさる所なり但右頼母子講々則に依れは會主世話人は一体となり不可分的に講務を執行すへき義務を負ひたるものなれは被控訴人の右掛金返戻の義務も亦不可分なりとすとて主文の如く判决したり(本年一月廿一日判决言渡)