地所明渡請求控訴事件
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法律新聞(新聞)16号6頁


控訴人東京市四谷區大番町二十四番地平民商玉置直明訴訟代理人辯護士若林成昭氏より被控訴人東京府豐多摩郡大久保村字東大久保四百九番地平民材木商村田安太郎に係る明治三十三年(子)第六百七十八號地所明渡請求控訴事付に付東京控訴院民事第二部裁判長小山温判事齋藤十一郎高橋覺柳川勝二藤波元雄の五氏は裁判所書記高橋一郎氏立會の上右の判决を言渡せり
(主文)第一審判决を左の如く變更す被控告人は控訴人に對し東京府豐多摩郡新宿元添地町三番地第一號所在宅地百五十坪及外一筆其地上工作物を收去し明渡す可し
(事實)控訴代理人に於ては第一審判决の全部を廢棄し更に主文記載の如き判决あらんことを求むと申立て被控訴人に於ては控訴を棄却す訴訟費用は控訴人に於て負擔すべしとの判决を求むと申立てたり
(理由)凡そ他人の土地に於て工作物を所有する爲め其土地を使用する者は明治三十三年三月法律第七十二號第一條に依り地上權と推定すべきものなりと雖も若し當事者間に於て賃貸借契約を爲すの意思明かなる場合に在ては右法律上の推定を下すべき限りにあらず被控訴人は本訴地所に付き地上權を有せりと陳辯するも被控訴人より明治三十二年五月二十五日付を以て控訴人を告知したる甲一號證の二には『該建物のある地所は地主柴田萬の所有主たる時より賃借し期間内に有之に付き云々』とあり東京區裁判所明治三十二年(ハ)第四十二號和解申請事件に付被控訴人より同裁判所に差出したる甲三號證委任状には『地所賃貸借和解申請事件云々』とあり又右委任状に基き被控訴人の代理として馬渡俊猷より同裁判所に提出したる甲二號證の一和解申請書には『明治二十九年六月より向ふ十年間賃貸借の約定締結罷在候處云々』とあるに依り此等の記載を綜合すれば被控訴人が本訴地所に付き賃貸借なることを認め居ること明瞭なり故に被控訴人が本訴地所に關して有する所の權利は地上權にあらずして賃借權なりとす從て被控訴人は明治三十二年五月八日控訴人の催告を受けたるより明治三十三年五月十六日起訴の時までは既に一ケ年を經過せるを以て速に本訴地所明渡の義務あるものとす因て被控訴人を於て地上權者なりと稱し之が明渡を拒むは其當を得ざるに依り主文の如く判决す(昨年十二月十一日判决言渡)