約束手形請求控訴事件(其二)
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法律新聞(新聞)15号7頁


控訴人栃木縣下孝賀郡生井村大字上生井三十五番地平民農海老沼興三訴訟代理人辯護士鯉沼平四郎氏より被控訴人東京市京橋區中橋和泉町一丁目七番地平民會社員西澤喜四郎訴訟代理人辯護士新井要太郎氏に係る明治三十三年(子)第六百五十三號約束手形金請求の控訴事件に付東京控訴院民事第三部裁判長横田秀雄判事中山勝之助藤田重守布施文四郎松岡義正の五氏は裁判所書記近藤近彌氏立會の上左の判决を言渡せり
(主文)第一審判决を左の如く變更す被控訴人の請求は之を却下す訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負擔とす
(事實)控訴人に於ては第一審判决を廢棄し更に被控訴變の請求を棄却する旨判决あらんことを求むと申立て被控訴人に於ては控訴は理由なきを以て棄却あらんことを求むと申立てたり
(理由)約束手形の裏書讓受人が裏書讓渡人に對して償還の請求を爲すには先づ以て拒證書の作成并に償還請求の通知を爲すことを必要とするを以て本件に於て被控訴人が此要件を充たりたるや否やの點に付審案するに控訴人は明治三十三年二月二十七日拒證書を作成し同二十八日甲四號證の如く其證書の作成并に償還請求の通知書を控訴人に宛て發送したる旨主張するも此事實は控訴人の認めざる所にして被控訴人の提出したる甲第三號證の書留郵便受取證は被控訴人より控訴人に宛て書留を以て郵便物を發送したることを證するに足るも其郵便が果して甲四號證の如き拒證書作成の通知及び償還請求の書面なりしことを證するに足らざるものとす右の外此點に關する被控訴人の主張を確むべき證左なければ被控訴人の主張は其效なきものとす注て被控訴人は約束手形の償還請求に必要なる前記の要件を充たさゞるに依り控訴人に對して本訴の請求を爲すの權なきものとす依で控訴は理由ありと認め主文の如く判决するものなり
(附記)世間往々約束手形の裏書人に對し書留郵便を以て支拂拒絶證書の作成并に償還請求の通知を發送する者尠なしとせず然れでも不徳義の裏書人に逢ふときは其事實を否認され爲めに所持人は學證上の困難を感ずることあるべし故に右通知を執達吏に托するを良策と信ず尤も東京地方裁判所は控訴院の判旨に反對したる説明を下したることあるも畢竟此事や事實の認定に屬する事項なれば當事者たる者初より權利喪失の恐れなき方法を計るに加かず