家屋明渡并に損害金請求事件
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法律新聞(新聞)14号8頁


原告東京市淺草區森下町三十三番地平民無業市川サト訴訟代理人辯護士山中兵吉氏より被告同市本所區松倉町二丁目五十九番地須藤ツ子に係る明治卅三年(ロ)一〇三八號家屋明渡并に損害金請求事習に付明治卅三年十二月四日東京地方裁判所第四民事部裁判長今村恭太郎判事水原親次鈴木善太郎の三氏は左の如く判决せり
(主文)被告は原告に對し東京市本所區松倉町二丁目五十九番地所在瓦葺平家一棟此建坪十一坪二合五勺造動疊建具付の侭を明渡し且明治卅三年五月十九日より本債務完了に至る迄一ヶ月金三圓五十錢の割合に於ける損害金を支拂ふべし訴訟費用は被告の負擔とす此判决は原告に於て保證金五十圓を供托するときは假りに執行することを得
(事實)原告一定の申立は主文記載の如き判决を爲し此判决には保證を立つべきを以て假執行の宣言を請ふと申立て其請求の原因として陳述する要旨は原告は明治卅年五月十九日に本訴の家屋を訴外人小林隈三より買受け所有權を得たり然るに被告は原告に對抗し得べき正當の原因なくして該家屋を只有し居るを以て其明渡を求ろ且無原因の占有により原告の所有權の行使を妨げられたる損害賠償の請求は其損害額は家屋の普通賃借料を標準とすと云ひ立證として甲第一二號證を提出し己號證を非認したり被告は原告請求を棄却し訴訟費用は原告の負擔とすとの判决を請ふと申立て其答辯要旨は被告は本訴の家屋に住居するは事實なり然れども該家屋は其所有者たる訴外人小池仁太郎より一ヶ月金三圓七十五錢の家賃にして賃借し明治三十三年十一月迄の家賃をも支拂ひ來れるものにして原告が右家屋の所有權を得たる事實は事を認めず故に其請求に應ずる能はずと云ひ立證として乙第一號證を提出し甲號證の成立を認めたり
(理由)本件の爭點は本訴の家屋は原告の所有に歸したるものなるや果して原告の所有に歸したるものとせば被告は此新所有者に對抗し得べき賃借權を有するものなるや否やに在り仍て之れが審案を遂ぐるに原告が本訴家屋の所有權を得たる事實は甲第一號證にある登記濟の印と甲第二號證に記載ある所有權取得登記により之を認むるに足れり被告ば之が反證として乙第一號證を提出するも同證は家賃の受取に過ぎざれば其記載に持主小池仁太郎とあるも之を以て家屋の所有者なりとは斷定し難ければ甲號證に對する反證と爲らず而して被告は原告が其所有權を得る以前に於て正當の權利ある者より本訴家屋を賃借したりとするも其賃貸借は登記あるに非ず又新所有者との間に特別なる法律行爲の成立したるにもあらざれば之を以て原告に對抗し得べきにあらず故に被告が該家屋を占有するは原告に對抗し得べき正當の原因なきものと認め從て之が明渡及其無原因の占有の爲めに生じたる損害を賠償するの責あるものと判定す而して其損害額に付ては被告は原告主張の家屋賃貸價格を爭はざるを以て其請求を正當と認め訴訟費用に付ては同第五百三條第一號を適用し主文の如く判决したり